新任教授寄稿


新任のご挨拶 -知的好奇心を研ぎ澄まし,ケミカルバイオロジーに新しいパラダイムを提案・実証し続ける研究室を…


東北大学多元物質科学研究所 和田 健彦


和田先生


 私は平成19年6月1日付で大学院理学研究科化学専攻協力講座でもあります多元物質科学研究所多元設計部門光機能設計分野に着任しました和田健彦です。専門は、核酸化学・人工核酸を中心とした生命化学・ケミカルバイオロジー、生体高分子を機能分子とし活用する高分子化学、光化学と生体高分子など超分子化学を組み合わせ不斉合成に取り組む「超分子不斉お光化学」です。昨年は本学100周年であり、そのような記念すべき年に着任させていただいたことを嬉しく、誇りに感じると共に、東北大、東北大学大学院理学研究科化学専攻における、次の100年を切り開くような新しい化学、生命化学分野創成に少しでも寄与できるよう頑張っていく所存でございます。どうかよろしくお願い致します。

 さて、今回歴史ある同窓会に特別会員として加えていただきましたので、この場をお借りして簡単に自己紹介と今後の抱負を記させていただきます。

 私は機能性高分子、特に生体高分子に基づく機能性高分子合成と応用に取り組んでおられた故竹本喜一大阪大学工学部教授のご指導の下、研究を行い、博士号を取得いたしました。竹本先生は70年代に現在の超分子科学の礎となる「積み木の化学」や「包接化学」を著され、ユニークな発想とその実証への方法論をご指導いただきました。学部,大学院博士課程を通じ薫陶を受けた竹本先生からは,生物を構成している核酸や蛋白質,多糖類,そして無機系高分子など生体高分子は,比較的簡単な構成要素・モノマー構造にもかかわらず,その組み合わせと構造変化などを巧みに、かつ精緻に制御することにより、極めて優れた機能を発現すると言う、不思議でかつ重要な魅力を教えて頂きました。

 博士号取得後、助手として竹本研に残り、様々な合成法を利用した機能高分子合成と、その特性を活用した生体賦活材料、生体適合性材料、ポリメリックドラッグ、ドラッグデリバリシステム用ポリマー、DNA配列解析HPLCシステム用固定相、感光性樹脂開発など材料開発など、材料開発にも取り組みました。平成7年井上佳久教授の研究室の助教授として移動し、光を使った不斉合成という全く異なった分野に取り組みました。井上先生は移動約1年後に科学技術振興機構ERATOプロジェクトを始められ、大学研究室とERATOプロジェクトメンバー双方から強い刺激を受けながら、これまでの高分子のある意味定性的な研究とは全く異なる、定量的・物理化学的検討を中心とした研究分野に没頭いたしました。この不斉光化学研究から、温度、圧力そして溶媒(溶媒和)などエントロピーファクターの重要性を認識し、このエントロピーを活用した反応制御に興味を持ち、分子を近接させることにより均一溶液計では弱い相互作用の活用が期待される規制反応空間を用いる超分子不斉光化学反応という新しい研究分野を提唱し、実証研究に取り組みました。この過程で光化学の世界的リーダーであるアメリカ・ニューヨークコロンビア大学Nichoras J. Turro教授の研究室に留学する機会を頂き、かつ協同研究のため1998から3年間ほど毎年3ヶ月程度滞在する機会に恵まれたことは、私の研究者人生にとって非常に有益でした。Nick(Turro先生は自分のことをそう呼べ言われてたので…)非常に多くのこと・考え方を学びましたが、最も大切なことは"新しいパラダイムを提唱し、実証することがこの世界では最も大切なんだよ、Hiko"と教えられたことでした。これは現在でも私の研究の根本にねど良く生き続けています.

 これから私は,現象論として重要性が明らかとされている生命現象コントロール鍵化合物群に対して,真の分子レベルでの機能発現機構解明に化学者の視点から取り組み,分子レベルで解析した機能発現機序考察に基づく積極的かつ可逆的,ダイナミックな細胞・生体機能制御方法を提案していきたい.また,これらの機能発現機構解析結果に基づいた,ラショナルデザインに基づく生体高分子の生体機能材料・ナノバイオ機能材料への展開・開発にも取り組んでいきたい.さらに,機能材料の最適化・実用化のみならず,物理化学的手法を用いて材料機能を解析し,生体機能材料全般に関する俯瞰的,統一的理解にも取り組み,一般的な設計指導指針確立にも努め,新しいパラダイムを提案していきたいと思います.

 研究室メンバーが,研究を楽しみ,プライベートでは仲が良いにもかかわらず,データーならびにその解釈などに関しては厳しく,互いの向上心を大切に,切磋琢磨しながら,"実験させられてる"のではなく,自から実験を提案し,結果の解釈,新テーマへの発展,独自の方法論の提案などを通じ研究を楽しんでいる…そんな研究室にしていきたと思います.

 実験データーの前では,教員もポスドクや院生,そして学部学生も対等…これが助教授として10年以上一緒に研究を楽しみ,苦しんだ阪大院工応化 井上佳久教授の口癖でした.このスタンスは,実験結果を出すことで満足してしまいがちな学生を,一段高いレベルに引き上げ,学生による実験結果の解析・解釈を尊重することを意味し,一線の研究者への教育訓練としてとても重要です.私の研究室でも実験と共に,データー検討会を大切にし,教員と学生が忌憚なく,フランクにディスカッションを楽しめる雰囲気を作っていきたいと思います.また,頑張らねばならない時には実験が深夜に及ぶこともあるが,日常的にダラダラ研究室滞在時間が長く,睡眠不足…疲れて目の輝きが失ってしまった学生がいる研究室にはしたくはありません.実験する時は頑張り,リフレッシュする時には研究のことなど気にすることなく思いっきり遊ぶ…そんなメリハリを大切に,キラキラ目の輝いている知的好奇心に溢れる学生が多い研究室にしていきたいです.また,欧米,アジアからの共同研究者やポスドクを受け入れ,学生の英語に対するアレルギーがない,国際色豊かな研究室にしたいと思います.

 データーは真実を語る…予想外のデーターが得られた時こそ,真剣に考えるチャンスと,知的好奇心旺盛に,自分が本当に納得するまで考える習慣を身に付ければ,日本からも常識と思われてる・信じられている,根本的な現象や法則でさえも覆し,独自の新しいパラダイムを提案できる研究者が育っていくと信じています.しかしこの様な最先端の実験系においては,いくらバックグランドを丹念に調べ,論理的かつ精緻な実験計画を立案しても,得てして壁に当たり期待通りの実験結果が得られないことも多いです.そんな時でも自分はダメだ…と,凹み挫けてしまうのではなく,こんなこともあるさ…と,良い意味で開き直り,新しい方法論でリトライできる精神的にもタフな学生を育てたいと考えています.また,最新論文のフォロー&データ理解はもちろん,世界の第一線研究者が目指していること,そしてその先に期待されるパラダイムを敏感に感じ,嗅ぎ取るセンスを身に付けた学生を育てたいと思っております.

 学部,大学院博士課程を通じ薫陶を受けた竹本先生からは,生物を構成している核酸や蛋白質,多糖類,そして無機系高分子など生体高分子は,比較的簡単な構成要素・モノマー構造を有するにもかかわらず,巧みで精緻な優れた機能を発現する…その不思議な魅力を教えて頂きました.私の尊敬する宍戸昌彦先生(岡大院工)も目指しておられますが,優れた機能を有する細胞類似システムを,いつの日にか人工核酸,人工蛋白質などを駆使して構築したい…と夢見ています.

 微力ながら東北大学理学部化学教室の発展に少しでも寄与できる異様、頑張る所存で御座いますので、何卒よろしくお願い申し上げます。


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