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追悼 大野公一先生


大野公一先生を偲んで

理論化学研究室 岸本直樹

大野公一先生が1994年に東京大学教養学部教授から東北大学理学部教授に転身されたことは大野先生のチャレンジ精神ゆえと理解し、当時大学院修士課程1年生だった私は、お話を聞いて直ぐに仙台に一緒に行くことをお願いしました。その後の大野先生の研究者人生を間近に見てきた者として感じるのは、常に、「誰もまだ成し遂げていないが原理的に不可能でないことに自分の知恵と努力でチャレンジしてみる」ことを大野先生は心掛けてこられたと思います。大野先生のご研究を振り返ると、初期の多環芳香族炭化水素化合物の電子状態・振動分光の研究から始まり、中期の励起原子衝突イオン化電子分光を用いた分子軌道関数の研究、後期の化学反応経路自動探索アルゴリズムの開発まで、チャレンジ精神と独自のアイデアの賜物のような研究成果を数多く発表されました。さらには教育者としても超一流であり、多くの教科書を執筆され、化学教育にも大いに寄与されました。

大野先生は2009年に東北大学大学院理学研究科を退職された後、豊田理化学研究所のフェローを務められ、その任期の終了間際にNPO法人を立ち上げられました。このNPO法人・量子化学探索研究所は「量子化学によって未知の化学を探索する新分野の開拓を目指す」という理念のもと、2013年2月に設立され、大野理事長が先頭に立って、化学反応経路自動探索プログラム(GRRM)の普及、研究会、シンポジウム、研究助成、奨学助成、ニュースレターや論文集の発行など、多岐にわたる活動を続けてこられました。このNPO法人の活動を、ほぼ一人で軌道に乗せてこられたことも、大野先生のチャレンジ精神が発揮されたことであり、ここまでやれた人はいないのではないかということをやってみせたゆえ、称賛されるべきことだと思います。2023年がNPO法人設立10周年という節目の年でしたが、大野先生は設立10周年記念行事の準備がこれからという時、2022年10月31日、ご家族やNPO法人の理事たち関係者を残して突然に旅立ってしまわれました。その後、「大野公一先生を偲ぶ会」が2023年3月に学士会館で開催され、大野先生のご家族、教え子、同僚、同級生、共同研究者などで大野先生の研究者人生を振り返り、大野先生との日々を懐かしみ、また、大野先生とのこ゚縁に感謝の意を述べる会になりました。

私は、NPO法人量子化学探索研究所からの研究助成に関する連絡を、大野先生が亡くなる数日前に電子メールで受け取ったのが最後になりました。この助成を受けた2年間、研究が大いに進展したことは大野先生にご報告しているつもりですが、まだまだチャレンジが足りないと言われているような気がします。私もNPO法人の理事の末席に加えていただいておりますので、大野先生の精神を受け継ぎ、NPO法人の活動を継続するなかで様々な機会に大野先生の話で皆様と懐かしみたいと思っております。


最後になりましたが、大野先生には人生の様々な場面でご指導いただきました。深く感謝し、大野先生の御冥福をお祈りしたいと思います。本当にありがとうございました。



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