新任教授寄稿



先端理化学講座 生物化学研究室 大橋 一正

境界領域化学講座 有機化学第二研究室 瀧宮 和男

物理化学講座 有機物理化学研究室 叶 深


先端理化学講座 生物化学研究室 大橋 一正


平成29年4月より、大学院理学研究科化学専攻、生物化学研究室に着任いたしました大橋一正と申します。

私は、九州、福岡の出身で、九州大学にて学位を取得いたしました。東北大学には平成11年に水野健作教授の理学研究科、生物学専攻・分子生理学教室への赴任と共に学術振興会の特別研究員として参りました。 同年、助手となり、大学院生命科学研究科の発足から准教授として青葉山キャンパスの化学棟の隣の生物棟にて18年間努めて参りました。 赴任当時は、生物化学教室の藤井教授、その後を引き継がれた十川教授に大変お世話になりました。私は、細胞社会が形成される分子機構に興味を持って研究を始め、細胞の運動や形態変化を司るアクチン細胞骨格の再構築とその細胞内情報伝達機構について研究を行って参りました。 東北大学に赴任するまでは、生化学的解析による細胞内の情報伝達機構の研究が主体でしたが、それだけでは生きている細胞の動的な変化を理解することは難しいと感じてバイオイメージングによる研究を始め、これまで力を注いで参りました。 近年は、細胞への機械的な力による刺激が引き起こす細胞骨格の再構築の分子機構とその生理的な役割について研究を行っています。細胞骨格は、細胞というブラックボックスの中で複雑かつ動的であり、しかしながら、情報伝達機構によって制御されて生命活動に寄与しています。 生命活動を細胞内の個々の分子の化学反応として理解するにはまだ多くの研究が必要ですが、その一躍を担っていければと思っております。

私は、東北大学に赴任後、多くの生物学科、生命科学研究科の学生と共に研究を行って参りました。 生物化学研究室に参りまして、理学部化学科の学生と共に研究を行うことになり、就任1年目から多くの学生の卒業研究をお任せ頂くことになりました。 想像していたよりも多くの学生が生命現象に関わる分子に興味を持っていることを知り、大変心強く思っております。 私の研究・教育が化学教室の中で化学と生物を結ぶ橋渡に少しでもなれば幸いに存じます。また、昨今は、学際研究の重要性も叫ばれており、学際高等研究教育院、国際共同大学院などの学内プロジェクトも盛んです。 これらのプロジェクトに積極的に参加して、化学、生物を越えた学際的な研究と共に国際的に活躍できる優秀な人材の育成に努力して参りたいと思っております。 最後になりますが、化学教室の皆様、歴史ある同窓会の諸先輩方におかれましては、今後とも、ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。



境界領域化学講座 有機化学第二研究室 瀧宮  和男 仙台から新たな有機機能化学を目指して


平成29年4月に化学専攻 有機化学第二研究室教授として着任いたしました瀧宮和男と申します。 有機合成化学を基盤に新たなπ電子系化合物の開発を行い、それらの物性や機能を追求しつつ、有機半導体デバイスに応用する研究を進めています。 よろしくお願い申し上げます。

私は広島県福山市に生まれ、広島大学工学部で学び、学位取得後、同大学の教員となりましたので、広島大の教授職を辞した平成25年までの45年間の殆どを広島で過ごしたことになります。 縁あって埼玉県和光市にある理化学研究所創発物性研究センターのPIとして研究室ごと異動し、さらに、平成29年からは東北大学大学院理学研究科にお世話になることになりました。 広島生まれですので、「遠くまできたのぉ」というのが正直な感想ですが、大きさや雰囲気が広島に似ており、また緑の多い仙台の街がとても気に入っています。 現在、東北大で新しい研究室を立ち上げながら、理化学研究所での研究活動も継続しておりますので、仙台と和光を往復する日々ですが仙台に来ると何となく安心します。

私の専門は構造有機化学と呼ばれる分野で、学生時代から有機化学で新しい分子を合成し、それらの構造−物性相関や電子・光機能を研究してきました。 研究を始めた当初は電荷移動錯体による分子性伝導体・超伝導体の開発を目指し、分子合成から単結晶育成、抵抗測定、構造解析など様々な実験手法により多角的に研究を行っていました。 2000年に自らの手で合成した化合物の超伝導転移を観測することが出来、その日は徹夜で抵抗測定をしていたのですが、眠いのを忘れるほど感動したことを鮮明に覚えています。 一方で世の中は動いており、「有機物を活性層に用いた電界効果トランジスタ(有機トランジスタ)」で(高温)超伝導、分数量子ホール効果など、それまでの物性科学の常識では考えられないような成果が報告され、これらは後に捏造であったことが明らかになるのですが、この新たな「有機デバイス」に強い興味を持つようになりました。 これが契機となり、有機半導体の開発とデバイス応用を一つの研究の柱として研究を再構築し、現在に至っています。 この間、独自の材料設計により高いホール移動度を持つ可溶性有機半導体や高効率有機太陽電池の開発などの成果を得ており、それらの材料の一部は既に販売されるようになっています。

これまでの経験から、実際に研究を行っている学生や研究員の熱意が、優れた材料にたどり着くための原動力になると断言できます。 東北大学で若い学生やスタッフと情熱をもって研究し、仙台から新たな有機機能化学を発信することを目標にしています。ご指導ご鞭撻のほど、どうぞ宜しくお願いいたします。



物理化学講座 有機物理化学研究室 叶 深


2017年4月1日に東北大学理学部化学科物理化学講座有機物理化学研究室の教授に着任いたしました. これまでに中島威教授や安積徹教授,福村裕史教授の著名な先生方が担当されてきた歴史ある研究室であり,伝統を受け継ぐと同時にグローバル時代の変革に応じイノベーションをしなくてはならない以上,誠に身の引き締まる思いがいたします.

この着任から遡る30年前の1987年10月に,思いもよらないチャンスで中国政府の国費奨学生に選ばれ,北海道大学大学院理学研究科化学専攻の喜多英明教授のもとに留学してきました. 白金単結晶電極における水素や窒素化合物の電極反応を調べ,電極表面構造による触媒活性の制御や反応機構の解明を試み,電気化学の基礎が叩き込まれました. 1993年4月に博士(理学)の学位を取得してから,北海道大学理学部化学科の物理化学研究室(魚崎浩平教授)の教務職員(後助手)に採用していただきました. 赤外反射分光法や走査型トンネル顕微鏡などの現代表面科学的研究手法を活用し,固液界面の原子・分子レベルでのその場研究を始めました. その間,米国カリフォルニア大学バークレー校物理学科に留学でき,非線形分光の権威であるY. R. SHEN教授の薫陶をうけ,新しい界面分光技術を学ぶと同時に,東西文化と思考方式の違いも経験しました. 2000年から北海道大学触媒化学研究センター(後北海道大学触媒科学研究所へと改組)の助教授(後准教授)となり,大澤雅俊教授の下で基礎電気化学研究のほかに,電極と電解質溶液との界面構造に着目し,リチウムイオン電池やリチウム空気電池といった二次電池も研究するようになりました. その間,さきがけ研究の「変換と制御」領域(領域総括:合志陽一先生)と「「界面の構造と制御」」(領域代表:川合真紀先生)の研究員も兼任し,生体物質に代表されるソフトマターの界面構造と機能性発現との相関研究にも取り組んできました.

学生時代を含むと30年間過ごし,名実共に第二の故郷となった札幌市から離れて,杜の都の仙台に来られたことが,非常に感慨深いです. 「研究第一主義」と「門戸開放」の基本理念を掲げ,世界最高水準の研究・教育を創造している東北大学に職を得ることは,大いなる重責を感じております. 歴史的に北海道大学は元々東北大学の一部であったことを考えると,母校に戻られる親しみも感じております. 数年前に東日本大震災に大きな被害に見舞われたにもかかわらず,東北大学の教職員と学生らが一丸となり,教育研究環境を見事に復興させたことに,改めて心から敬意を表したいと思います. 東北大学理学部化学科の故田中信行先生(1955年〜1983年,無機化学研究室を担当)がポーラログラフィーを用い,先駆的な電気化学研究をリードしました. また,東北大学理学部化学科出身である高村勉先生(前立教大学教授)や高村喜代子先生(前東京薬科大学教授)は日本の電気化学研究の重鎮であり,その鋭い見識力と温厚な人柄に魅了されて,学生時代から慕ってきました.

よく知られているように,触媒反応をはじめ多くの化学反応は,物質の表面あるいは界面で起こります. したがって,物質の表面・界面における微視的構造評価と制御は,化学反応の本質的理解および新機能物質の創出において極めて重要です. 新しい有機物理化学研究室おいては,凝集相における実験物理化学の研究分野にあって,古典的な電気化学を基盤としつつ,界面振動分光や,顕微分光, 走査型プローブ顕微鏡などの最先端計測技術を駆使し,物質表面・界面に起こる化学反応の動挙動を高感度に捉えて,表面・界面構造と反応活性との関係を調べ,表面構造設計による新規材料の創製を目指します. なかでも高効率の二次電池電極触媒の開発や表面構造制御によるソフトマターの高機能化を目指して, 分子・原子レベルでの理解に基づく研究に取り組んでいきたいと考えています. 東北大学大学院理学研究科化学専攻に,世界的にも注目されるような界面物理化学や電気化学の研究拠点になるようにより一層努めてまいりたいと存じます.

化学教室の皆様や同窓会の諸先輩方におかれましては,今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます.

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