金研に錯体化学の研究室を構える
金属材料研究所 超構造薄膜化学研究部門 宮坂 等
平成25年4月より金属材料研究所 超構造薄膜化学研究部門(平成26年4月からは、錯体物性化学研究部門に名称変更)の教授に着任いたしました。当部門は化学専攻の協力講座として籍を置いており、今後、化学教室の皆様方、同窓会の方々にもお世話になるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
平成18年4月から平成23年3月までの5年間、錯体化学研究室(山下研)の准教授として青葉山で研究・教育に携わっていた経緯もあり、4月の教授会で2年ぶりに見慣れた笑顔に迎えていただいた時には、「ああ、帰ってきたなあ」と内心ホッと致しました。3年前、ここを去る寸前に東日本大震災に見舞われ、多くの装置や研究器具を失いながらも、当時、震災の影響がなかった金沢大学で研究室を立ち上げるという状況は、どこか引け目を感じざるを得ませんでした。また、研究室の復旧・復興をせずに仙台を離れてしまったことに対して、これまで心に楔が打たれたような状態でおりました。今回、再び東北大化学教室の協力講座として戻って来られたことを機会に、「自らも共にありぬ」という気持ちで、更なる発展に尽力できればと心から思う次第です。
さて、本年度から金属材料研究所(金研)の一部門を背負うことになった訳ですが、ご存じのように、当研究所は国内最初の附属設置研究所であり、本多光太郎博士のKS磁石鋼の開発から始まる、金属材料研究、物性研究の世界的メッカです。現在、もう一つの協力講座として宇田教授が率いる結晶材料化学研究部門が無機系結晶学に関する研究を展開しており、小生の部門系統でも、前任者である川崎雅司教授(現、東大)、その前の庄野安彦名誉教授(超高圧化学研究部門)、さらにその昔の本間正雄名誉教授(冶金化学研究部門)も、金属冶金化学や酸化物などの無機系材料の物性化学を研究しておりました。即ち、小生の研究分野である有機合成と配位化学の分子ボトムアップ化学から始まる「錯体化学」という学問が金研で部門を背負うことは、これまでの長い歴史で初めてです。当然ながら、金属錯体を基にした固体物性化学を展開していますが、金属単体、合金、酸化物などのいわゆる“硬い”無機系バルク材料をターゲットにする研究から、“柔らかい”分子の集合である金属錯体などの幅広い物質・材料にも目を向け始めた金研の姿は、シリコン半導体から有機エレクトロニクスへと移りつつある今日の材料科学の急速な潮流を表している様にも見えます。温故知新であり、必ずしも古いモノが淘汰されるとは思えませんが、急速な科学の発展と、且つそれを取り巻く膨大な情報の中で、我々の研究・分野・部門で、「今後何が面白いのか、何ができるのか」をじっくりと考え、方向を見定めることも小生の使命であるのかもしれません。
2016年には金研の100周年を迎えます。新たな転換期に新分野で金研に部門を構えたことは、誠に身の引き締まる思いですが、化学教室の発展に対しても、尚一層尽力したいと考えております。今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。