新任教授寄稿



仙台の地に赴任して 林 雄二郎

新任のご挨拶 豊田 耕三


仙台の地に赴任して


有機化学講座、有機分析化学研究室 林 雄二郎


 平成24年7月1日付けで、有機化学講座、有機分析化学研究室の教授に着任致しました。日本の有機化学の原点である東北大学の有機化学講座に職を得、大いなる重責を感じております。簡単ではありますが、自己紹介をさせていただきます。

 有機合成化学において、新しい反応の開発と天然物合成と大きく2つの領域に分ける事ができる。外からみると同じように思えるであろうが、2つは別の研究領域と言っても良いくらい違う。新しい反応を開発するには、天然物合成における知見は非常に有益である。一方、天然物の全合成を効率的に行うには、既存の反応の組み合わせでは解決できず、新しい反応の開発に迫られることが多い。両者をバランス良く研究する事によって相乗効果が期待できると考え、困難ではあるが、両方の領域から研究テーマを設定し、研究を行ってきた。

 学部卒業研究、大学院修士課程は東京大学理学部化学教室で向山光昭先生の薫陶をうけ、反応開発の基礎を叩き込んでいただいた。向山先生が東大を定年退官され、奈良坂紘一先生が教授に昇任された際に、博士課程を中退し、助手に採用していただいた。助手の時も、真に新しい反応の開発を目指した(“真”に“新規”な反応に出会うのは、本当に難しい事を痛感した)。助手の時に大学を2年間休職し、米国Harvard大学化学科のE. J. Corey教授(1990年ノーベル化学賞受賞)のもとで博士研究員として研鑽を積む機会があった。先生は当時60代半ばであったが、化学に対する献身的なまでの取り組みは、私にはとても大きなショックであった。

 当時のアメリカは日本では聞いた事がなかったコンビナトリアルケミストリーの発展期で、ケミカルバイオロジーの創成期にあたる。有機化学がバイオロジーと結びつき、ケミカルバイオロジーの新領域が生まれ、化学・生物がダイナミックに発展していた時代である。有機合成化学の重要性を強く認識すると同時に、将来は強力な生物活性天然有機化合物の合成を一つのプロジェクトの柱にすることを心に決めた。

 帰国して2年後の1998年、東京理科大学工学部工業化学科の助教授として独立して研究室を主宰する事になり、以来反応の開発と天然物の全合成を2本柱として研究を行ってきた。東京理科大のある神楽坂はもと色街であり、研究以外にも刺激的な、かつ情緒のある街であった。工学部に所属していた関係で、機械、建築、電気等の異分野の先生と各自の研究の意義・面白さを語り合ったのは非常に稀な機会であったし、工業化学科という学科で化学工学に関する研究を知る機会があったのもいい経験であった。研究室は、今考えると信じられないくらい狭かったけれど、やる気に満ちた学生諸君と、優秀な共同研究者に恵まれて研究を行う事ができたのはありがたかった。現在多くの人に使っていただいているJorgensen-Hayashi触媒を開発できたし、全合成研究者の記憶に残るタミフル合成を開発できたのも、皆のお陰である。

“ものつくり“は面白い。有機化合物を作るのは楽しい。どうやったらうまく作れるかな?と考えているとつい時間を忘れてしまう。しかし一生懸命考え、計画した合成は、ほとんどうまくいかない。私の化学の力量が不足しているのが最大の理由の一つであるが、まだ有機合成化学という学問が成熟していないからではないかとも思う。多くの試行錯誤が必要とされる。試行錯誤をできるだけ減らし、簡単に、少ないステップで望みの有機化合物が誰でも作れる時代がきて欲しいし、そのために一層努力したいと思う。

 うまくいった時の喜び、予期していない事への驚き等、実験有機化学にはやっていて良かったと思える時がある。これらの経験は若き学生諸君を多いに成長させる。一つの化合物、一つの反応には多くのドラマが詰まっている。仙台の有機化学の伝統をさらに発展させ、仙台の地で新しい化学を切り開き、優れた人材を生み出したいと思う。


ページトップへ


新任のご挨拶


有機化学講座 学際基盤化学研究室 豊田 耕三


 平成24年9月1日付けで有機化学講座(学際基盤化学研究室)教授を拝命いたしました豊田耕三と申します。合成有機化学研究室ならびに合成・構造有機化学研究室在籍の折りは東北化学同窓会の皆様に一方ならずお世話になり、ありがとうございました。

 学際基盤化学研究室では有機遷移金属錯体の化学を中心に基礎研究から境界分野的な応用研究まで行っています。また、新たな領域として緻密に構造制御された高分子量配位子とその大規模金属錯体の合成と応用研究を目指しています。「高分子」ではなく「高分子量」と表現したのは、一般的な高分子が単一もしくは幾つかのユニットの繰り返しを基本とする化合物(いわゆるポリマー)であるのに対し、当研究室では分子量数千〜数万程度のきちんと構造制御された、ポリマーとは言えない人工化合物の研究を目指しているからです。このためにオリゴアレーンを主軸とし、種々の置換エチニル基を側鎖とする(エチニルチエニル)アレーンユニットを考え、その側鎖配列(シークエンス)制御連結系について検討しています。なるべく多様な側鎖を導入できるようにして、遷移金属化合物研究はもとより芳香族化合物研究やヘテロ原子化合物研究にも展開できる系になるよう努力してまいります。

 さて学際基盤化学研究室では学生実験もお世話していくこととなっておりますが、その学生実験も大きな転換期を迎えつつあります。平成25年秋よりGlobal30プログラムAMC(Advanced Molecular Chemistry)コース留学生の最初の学生実験が始まります。Global30プログラムでは化学およびその他の科目の講義が英語で行われております。AMCコースの学生実験でも英語を使用することとしており、おそらくこれだけ多く(数人〜10人程度)の留学生の学生実験を行うのは化学教室の歴史の中でも初めてのことであり、何とか成功させようと身の引き締まる思いです。

 また平成25年度は理学研究科低層棟の耐震改修工事の一環として、化学系学生実験棟(化学B棟)の大がかりな改修工事も行われることとなりました。当時の化学科・化学第二学科が青葉山キャンパスに移転して以来、多数の学生が学び多くの化学者を輩出してきた建物も、二度の大地震に耐え築40年を経てさすがに傷んだ箇所が増えてきています。これを機会に伝統を残しつつも強度を増した講義棟・実験棟に改修できればと考えています。

 このようにたいへんな時期ではありますが、化学教室のために微力ながら尚一層努力したいと考えておりますので、今後ともお力添えのほど宜しくお願い致します。



トップ ホーム