同窓会本部より
東北化学同窓会会員の皆様へ
本部幹事 飛田博実
大震災から一年余りが過ぎました。この一年は,まさに東日本大震災および福島原発事故という激動に翻弄されながら明け暮れたと言っても過言ではないと思います。化学教室はその只中で創立百周年を迎えました。東北化学同窓会報は,平成22年度号はやむなく発行を見合わせましたが,ここに平成22年度・23年度合併号として掲載できることになりました。また,同窓会報の百周年記念号も,多くの同窓生の方々から様々な思いのこもったご寄稿や貴重な資料をいただいてほぼ完成に至っており,この拙文が読まれる頃には既に皆様のお手元に届いているかと思います。幹事代表として誠に喜ばしいかぎりです。
まずは平成23年度の本部幹事をご紹介します。庶務幹事は石田真太郎(理化・合有),会計担当は粕谷素洋(多元研),広報担当は古山渓行(理化・機能分子),そして幹事長が飛田博実(理化・無機)です。事務局は,化学教室を退職された横林洋子氏が非常勤職員として担当しております。不慣れで至らぬ点も多いかと存じますが,何卒ご容赦ください。
最初に,大震災の化学教室への影響に触れておかなければなりません。理学部の中でも特に大型装置や危険薬品の多い化学教室は,マグニチュード9.0の巨大地震により非常に大きな被害を受けました。青葉山キャンパスの化学棟は,2007年度の耐震改修工事のお陰で幸い倒壊は免れましたが,上層階の実験室やセミナー室はほぼ壊滅状態となりました。装置,器具,棚などの被害が非常に大きかったのと対照的に,人的被害は全くありませんでした。これは,何よりも有効な地震対策がとられていたお陰だと思います。地震後一年を経過した現在でも8階および7階の一部は未だに復旧しておりません。震災前そこにあった無機化学研究室,錯体化学研究室および反応有機化学研究室は,新しく建てていただいたプレハブ棟,農学部および薬学部と化学棟5階にそれぞれ移転または間借りして研究を続けております。同窓会本部も,震災後は構成員が色々な場所に分散してしまい,またやらなければならないことも山積みだったため,正直なところしばらくの間開店休業状態でした。
本化学棟は,今回の東北地方太平洋沖地震および34年前の宮城県沖地震という2回の大地震に見舞われることによって,図らずも「8階建ての建物は化学の実験室を置くには危険すぎる」ことを実証することになりました。このことは是非とも広く周知し,重要な教訓として残して行かなければなりません。また,これを受け,国の補正予算によって免震構造を持つ新研究棟がおよそ2年後に理学部に建設されることが決まりました。化学教室の幾つかの研究室はそこに移転する予定です。一方で,大地震からの復旧・復興がいかに困難で時間がかかるかも,一年余りを経過して強く実感しております。地震の活動期を迎えた日本では,今後も今回に匹敵する大震災や噴火が,各地で起こる可能性が高いことが指摘されております。近い将来必ず起こる大災害の被害をいかに小さく抑えるかは,現時点での最重要課題の一つです。中でも建物,エネルギー,安全対策などに関わる問題については,化学者は物質の専門家として的確かつ多様な知恵を出せる立場にあります。これからの化学者は,いわゆる「専門バカ」になってはならず,何十年,何百年先まで国民を苦しめる危険をはらんだ技術を見極めてはっきりと拒絶し,同時にそれに代わる優れた技術を提案・推進する見識と勇気を持つべきだと思います。東北化学同窓会の会員の皆様には,大きな被害を受けた東北大学に籍を置いた者として実感をもってその議論の先頭に立ち,世論を牽引して行っていただきたいものです。本同窓会が,その意見交流の場となることを期待しております。
さて,震災の話が長くなってしまいましたが,本来の同窓会の話題に戻ります。昨年度・本年度も,紫綬褒章,日本化学会の各賞,学生対象の賞などを,多くの教員,在校生,同窓生が受賞されました。また,理学部開講百周年記念行事として,小川正孝先生の胸像が理学部キャンパスの広場に建立され,昨年9月10日に除幕式が行われました。この像は宮城県出身の彫刻家佐藤忠良氏の監修であり,製作はお弟子さんの笹戸千津子氏が担当されました。理学部へお越しの際は是非ご覧ください。これらのことについて,詳しくは会報をご覧ください。
悲しい記事も掲載されております。中でも,ヘビ毒研究の第一人者として化学教室の発展に多大な貢献をされた田宮信雄先生のご逝去は残念でなりません。亡くなられた同窓生の方々のご冥福をお祈り申し上げます。
同窓会の活動内容は,最近十数年の間に大きく変わってきております。ご存じのように同窓会報は現在では冊子ではなくホームページの記事として掲載されており,また名簿も3年に一度CD-ROMとして配布されております。したがって,現在の同窓会の重要な活動の一つは,ホームページの維持管理です。ホームページは,会報の記事をじっくり読むのには向いていないかも知れませんが,同窓生に関する情報を迅速に会員の皆様にお届けするのには適しております。今後,ホームページの改良と一層の充実を図っていく予定ですので,積極的にご利用いただき,ご意見やご提案等お寄せいただければ幸いです。
最後に,大震災の影響により半年遅れて3月18日に開催された,化学教室創立百周年記念式典,記念講演会および同窓会総会には,多くの方々にご出席いただき有難うございました。末筆ながら,同窓会会員の皆様の今後のご健康と益々のご発展をお祈り申し上げます。