学生受賞記念寄稿


「青葉理学振興会賞ならびに東北大学総長賞を受賞して」 前田 理

「青葉理学振興会奨励賞を受賞して」 猪俣 翔

「青葉理学振興会奨励賞を受賞して」 西本 隼人

「荻野博・和子賞受賞」 東 隼也

「荻野博・和子賞」 藤沼 尚洋

「平成18年度黒田チカ賞の受賞にあたって」 中村 葉子

「平成18年度化学専攻賞受賞にあたって」 佐藤 健一郎


青葉理学振興会賞ならびに東北大学総長賞を受賞して


前田 理


 このたび、青葉理学振興会賞および東北大学総長賞をいただくことができ、大変うれしく思い、選出していただいた諸先生方に厚く感謝いたします。

 私の研究は、私が修士1年の学生であったときに、大野公一教授が共にFrank Jensen著Introduction to Computational Chemistry第一版を輪読して下さったことによって始まりました。輪読といっても、時間の半分以上は、既存の方法の問題点や新しい方法の可能性について、この本を基にして議論することに費やされ、第14章において、教授が本研究の基本原理に当たる方法論を提案しました。しかしその方法は、そのままでは実際の化学反応の問題に応用できなかったため、3ヶ月以上の間、二人ともこれについては忘れていましたが、その解決策に気付き、それがうまくいったのをきっかけに、私の研究はスタートしました。

 分子の平衡構造と化学反応の遷移状態は、ポテンシャル面上のエネルギー極小点および一次鞍点にそれぞれ対応し、化学反応は、対応する化学組成のポテンシャル面上でこれらを探し出すことによって、理論的に解析または予測することができます。しかし、ポテンシャル面は分子振動の自由度と同数の次元を持つ超曲面であるため、量子化学計算に基づくポテンシャル面全体の系統的な自動探索は、たった5原子の組成についても実現していませんでした。我々が、以上のような経緯で開始した研究は、非調和下方歪み追跡という新しい概念によって、この問題を解決しました。非調和下方歪みは、無限に広がった多次元空間内で、どの方向に進めば遷移状態が見つかるかを示す、言わば航海における羅針盤のような働きをし、これを辿ることによって、未知化合物、未知反応経路をコンピュータによって自動探索することが可能になりました。現在では、様々な近似法とも組み合わせ、100原子以上からなる系にまで、本手法を適用できるようになり、様々な応用の可能性が見え始めています。

 冒頭でも述べましたように、大野教授が貴重な時間を割いて上記書籍を共に輪読し、さらにその中で様々な議論をして下さらなければ、この研究は存在しませんでした。この可能性とその後のご指導を頂いた大野公一教授に深く感謝いたします。教授と私とで2003年から開発してきたこの方法は、ポテンシャル面全体の系統的な自動探索を可能にする唯一の方法として上記書籍の第二版において紹介されるに至りました。また、幸運にも、現在も大野教授の下でこの仕事を続けることができています。東北大学発のこの方法が、化学反応の理論解析・理論予測の世界標準になるように、努力していきたいと思います。

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青葉理学振興会奨励賞を受賞して


猪俣 翔


 この度、青葉理学振興会奨励賞を受賞することができ、大変嬉しく思います。この名誉ある賞をいただくことが出来たのは自分自身の努力以上に、私の学生生活を支えてくれた家族や周囲の友人、そして何より、私たち学生のためを考えて講義を行ってくださった教官の方々のおかげです。この場を借りて御礼を申し上げます。大変ありがとうございました。

 受賞の知らせを受けたのは、私が研究室に配属されてまだ半年も経っていない昨年の冬でした。その頃の私は、それまでの講義と学生実験を経た経験から想像していた「研究」と、実際の研究活動の間に大きなギャップを感じ、挫折を繰り返していた時期でした。こうした苦境の中で、奨励賞受賞の知らせは自信を失いかけていた私を励まし勇気づけてくれた、まさに救いの手でした。同時に、研究を押し進めようと焦るばかりの私に、純粋に化学を楽しむ事を思い出させてくれたようにも感じます。現在も研究は順調とまでは行きませんが、教官や先輩方と相談することで考察を深め、考えることを楽しみながら一歩一歩目的に向かっていると確信しています。

 私は現在、上田教授の下でアメリカネムノキという植物が行う就眠運動―一日周期の葉の開閉運動―を有機化学的に解明する研究を行っています。研究に必要不可欠な分子プローブの量的供給という目標に向けて、考え出した合成スキームに沿って実験を繰り返す日々を送っています。また、この様なケミカルバイオロジー―有機化学的手法と分子生物学的手法を組み合わせることで生命現象を分子レベルで理解しようとする手法―は、化学の世界の中でも現在最も熱い分野であると感じています。この分野での進展が期待される研究の一翼を担っていると言う自覚を持ち、これからの研究にますます打ち込んでいきたいと考えています。

 最後になりましたが、このような素晴らしい賞をくださった東北化学同窓会の皆様にお礼申し上げるとともに、益々のご発展をお祈りいたします。

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青葉理学振興会奨励賞を受賞して


西本 隼人


 この度、青葉理学振興会奨励賞を受賞させていただきました。研究室の寺田眞浩教授から実際に受賞のことを聞いたのは昨年(平成19年)の初め頃ですが、そのときはとても驚きました。私としましては、特に賞をもらうようなことをした覚えが無かったからです。

 詳しく内容を聞いたところ、学部の授業での成績が優秀だった人に贈られる賞だということで、それはそれで恐縮しました。というのも、学部の授業でしたことといえば、講義に出て、寝ないように気をつけて話を聞きノートをとる、ということくらいだったからです。特別にしたことといっても、興味のある講義についてのみ、自分なりに講義とは別に勉強をしたという程度です。いただいた賞状を何度か見直しても、未だに信じられません。強いて言えば、このように毎日講義に出ることができたのは、これといった病気をすることなく生活してこられたからです。健康第一。体に気をつけることが一番ですね。

 さて、現在私は、反応有機化学研究室に籍を置いています。地球規模で環境のことが取沙汰されている現在、有機化学でも環境に配慮した反応の開発が重要になっています。つまり、「副生成物が出ないよう、欲しいものだけを選択的、効率的に合成する」ことが重要になっているのです。当研究室ではこのようなコンセプトの基、30人余りのスタッフ、学生が日々実験を行っています。実験はうまくいったりいかなかったりを繰り返しています。今のところ、うまくいかない割合の方が少し多いように感じます。でも、そういったときに「どうすれば改善できるのか」を考え、それを実現させるように試行錯誤する、というのがこれからの人生において大事になってくるのだと思います。

 いつもお世話になっている研究室のみなさん、落ち込んだ時に話し相手になってくれる先輩や友達、後輩、そして遠くから私を支えてくれている家族への感謝の気持ちを忘れずに、これからも頑張っていきたいと思います。

 最後に、東北化学同窓会の皆様、このような機会を与えてくださり本当にありがとうございました。皆様の益々のご発展を心からお祈りしています。

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荻野博・和子賞受賞


東 隼也


 この度、荻野博・和子賞を受賞いたしました。大変光栄なことと思っております。この様な賞があると知ったのは、学部三年の研究室配属の後でした。受賞決定の報告を聞いたときは、「まさか自分が受賞するなんて」という驚きの気持ちでした。しかしそれとは裏腹に、受賞後はもっと頑張って勉学に励み研究にも取り組まなければならないというある意味強迫観念のようなものを感じました。賞を貰うということはそれなりに社会(この場合は大学当局ですが)から、その努力や功績が認められたということだと思うので、それに恥じない立ち振る舞いが求められるということです。それゆえに、周りからの期待というプレッシャーが少なからずはありました。しかし、このようなプレッシャーを逆手にとって、自分を戒めることで明日の活力にしていきたいと意気込んでおります。何らかの形で賞が頂けるということは学生にとって大きな励みになると思うので、今後も絶えることなく続けていただければと思います。また、この様な賞を頂けたのは、自分自身の力だけではなく周りにいた人たちのおかげでもあると思っています。授業などでわからない事が出てくるとすぐに相談できる友人や先生方がいたということが大きかったと思います。そういう点では、自分がすごくいい環境で大学生活を過ごせたのではないかと感じています。こういった環境は、最初からあるわけではなく、自分からそういう環境に創り上げていかなければならないと思います。この大学生活の中で、それは可能であることが分かりました。

 最後に偉そうなことは言いたくはありませんが、『Success depends on your own efforts. 諦めずに努力し続ければいつかは報われる』というメッセージを後輩である学部生に残したいと思います。また、この場を借りて感謝の気持ち込めて、気の置けない友人に「ありがとう」、そして親切にしてくださった先生方に「どうもありがとうございました」。

P.S. つれづれなるままに、日くらし、硯にむかひて、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ

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荻野博・和子賞


藤沼 尚洋


 この度、荻野博・和子奨学賞を受賞させて頂きました。まず初めにこのような賞を頂けたことに感謝の念を申し上げます。

 さて、振り返ればこの賞を受賞するにあたりまして、ある日突然研究室の机の上に封筒が置いてあり、その内容にあまりにも身に覚えがないために、化学事務を訪ねて何かの間違いではないのかと確認したことを思い出します。恥ずかしながら、今回までこの賞のことも先生方お二人のことも存じ上げなかった私ですが、現在、錯体化学研究室に所属しておりまして、偉大な先生方とも多少なりとつながりがあるように感じるようになりました。といいますのも、ある日廃薬品の整理をしていますと、偶然『荻野和子』とラベルされたサンプルチューブが出てきたのです。勝手ながらこれは何かの縁に違いないと思った私は、そのチューブを実験台の正面にセロハンテープで張り付け、まるでお守りか何かのように掲げておりました。

 先に行われた授賞式では荻野博先生とお話させていただける機会を設けていただき、先生のエネルギーの強さに驚きました。特に印象的だったのが、この賞を設立するにあたり先生が考えておられたことです。それは、受賞した経歴が学生の今後において一つの武器になること、これからの人生の助けになることこそ、このような賞の意義である、といったものでした。賞といえばそれを掲げることで生徒の意気があがるものだ、とぐらいしか考えていなかった私にとって目からうろこが落ちたようであり、それ以来このような賞への見方も少し変ったように思われます。

 今回突然訪れたこの貴重な経験は、両親への親孝行の資金のみならず、私のこれからに一つの助けをくださいました。このような賞が化学科に存在しているということが、もっと学生の皆さんに広まればいいと感じております。賞を目指して、というと語弊がありますが、そのような科に属していることを知ること自体、何らかの好影響を与えてくれそうな気がするのです。それに少しでも貢献できるよう私も何かしらの行動を起こしたく、まず、友達に精一杯自慢させて頂きたいと思っております。

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平成18年度黒田チカ賞の受賞にあたって


中村 葉子


 この度はこのような賞をいただき大変光栄に思っております。選出してくださった諸先生方に厚く御礼申し上げます。また、賞の対象となった研究成果は有機化学第一研究室において行われたものであり、ご指導をいただいた上田 実教授を始めとする先生方、共に実験した後輩諸氏、実験を行うにあたりご協力をいただいた多くの方々に深く感謝いたします。

 某会社のCMで「この木なんの木」として知られているアメリカネムノキは、夜になると葉を閉じ、朝には再び葉を開く就眠運動を行います。この就眠運動は生理活性物質によってコントロールされることが明らかになっています。私は、その活性物質が就眠運動をコントロールする分子レベルでのメカニズムの解明を目指し、活性物質を有機合成でプローブ化合物に導き、そのプローブを用いた活性物質の標的細胞および受容体タンパク質の探索を行いました。その際、生体内でプローブ化合物が行う非特異的結合と生物学的に意味のある特異的結合を完全に区別することができるエナンチオ・ディファレンシャル法を開発し、それを用いて活性物質の受容体探索を行うことで、受容体候補タンパク質の検出に成功し、就眠運動に関する新しい知見を得ることができました。

 私事で恐縮ですが、私は宮崎大学農学部農林生産学科を卒業し、有機化学は東北大学大学院農学研究科で大学院から学びました。大学と分野を転向するかなり無謀な挑戦でしたが、先生方や同期に本当に一からいろいろと教えていただいたおかげで研究生活への第一歩を踏み出せました。その時に東北大学の良さとして、門戸開放と研究第一主義を実感しました。また、博士課程後期から、化学の目で植物の現象解明をしたいという目的のため、理学研究科の上田研に移り、研究を続けてきました。理学研究科ではCOEリサーチアシスタントなどの経済的援助もいただき、大学院生活が始まって以来、研究することへの惜しみない協力とバックアップのもとで、のびのびと研究に従事することができました。博士課程では本当に答えの分からない課題に取り組み、何回か「!」と思うことがありました。研究対象はわからないことだらけですが、少しずつ予想がつかなかったことが分かってくるのは面白く、やりがいがあります。本当は今まで研究をさせていただいたことに感謝しなければならないのに、賞までいただいたのは大変恐縮なことですが、これからも受賞を励みに研究に従事して行きたいと思います。最後に、このような機会を与えてくださった東北化学同窓会の皆様にお礼申し上げるとともに、益々のご発展をお祈りいたします。

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平成18年度化学専攻賞受賞にあたって


佐藤 健一郎


 2007年3月、博士課程後期修了にあたり化学専攻賞を受賞いたしました。東北大でお世話になって早9年。学生生活の最後にこのような栄えある賞を頂けましたこと、大変光栄に思います。これも日頃からご指導下さいました山本教授、浅尾准教授ならびに研究室の皆様のおかげです。また、大石博士、野上博士、笠原修士を始めとする諸先輩方からのご指導無くして今の自分はありません。重ねてこの場を借りて感謝申し上げます。

 思えば山本研究室の門を叩き、金や銀といった貴金属錯体などの炭素親和性ルイス酸による分子変換の醍醐味に触れ、その可能性に魅せられて無我夢中で突っ走ってきた6年半でした。今だから(?) 言えるのですが、研究室配属当初は決して学業優秀とはお世辞にも言えず、教授からも学部時代はステルス戦闘機みたいだった (優秀レーダーには全く引っかからないの意) と揶揄される始末。しかし、その後は周りの温かいサポートと運もあって、学術振興会からの支援を受けたり、Hashmi教授の下でのドイツ短期留学も経験したりと自分には勿体無いくらい恵まれた研究生活を送らせて頂きました。この賞を私一人で受けるには誠に恐縮であり、支えて下さった皆様で分ち合いたいと思います。

 現在、私は2007年4月より旭化成に就職し新たに研究生活をスタートさせました。ようやく一年経とうとしている中で思いがけず今回寄稿依頼を受け、少しの戸惑いと共に忘れかけていた受賞時の「達成感、感謝、そして責任感」といった熱い想いを呼び起こす良い機会となりました。今後はこの気持ちを忘れず賞に恥じないよう一層精進していきたいと思います。

 最後に、このような機会を与えて下さった東北化学同窓会の皆様に厚く御礼申し上げると共に、百年目を迎えさらなるご発展をお祈り致しております。


佐藤氏


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