新任教授寄稿


「新任のご挨拶」 多元物質科学研究所 及川英俊

「理科実験教育室に着任して」 高等教育開発推進センター 関根勉

「新任教員ご挨拶」 多元物質科学研究所 分子機能制御分野 永次 史


新任のご挨拶


多元物質科学研究所 及川英俊


 本年4 月より,多元物質科学研究所有機系ナノ構造制御研究分野を担当することになりました及川英俊と申します.大学院理学研究科化学専攻の協力講座として化学教室の皆様にはお世話になります.以下,自己紹介とこれからの研究について考えていることを少し述べさせて頂きます.

 出身は仙台です.卒業研究は化学教室の反応有機化学講座で小田雅司先生(のち阪大理教授)に直接ご指導を頂き,非ベンゼン系芳香族化合物の合成でした.夏休み前までは小田先生のマンツーマンによる実験の手解きを叩き込まれ,その後有機合成からは離れましたが,その時の経験は今でも役に立っていると感じています.大学院博士前期課程は非水溶液化学研究所(当時)の村上謙吉先生のもとで行いました.ここで架橋エラストマーの研究を通じて,私のバックグランドとなる高分子科学の構造・物性論を学びました.高分子科学は有機化学と物理化学を基礎として,化学工学までとその裾野は広く,基礎研究が応用と融合するこの分野に大いに興味を抱きました.そのためか,有機系から物理化学系研究室に変わっても,ほとんど違和感はありませんでした.同課程修了後,村上研究室の助手になりましたが,全くの放任主義にあって,私は,膨潤状態にある架橋エラストマーを冷却した際の膨潤媒の氷点降下現象と架橋ゲル構造というテーマを設定しました.これで学位(論文博士)を取りましたが,参考文献も殆ど無く,むしろ自由な(勝手な?)議論を展開しておりました.考えるべきことは,架橋ゲル構造という制限されたサブマイクロ空間内での膨潤媒(実際はベンゼン)の融液結晶成長です.架橋ゲル構造を評価するための光散乱法と膨潤媒の熱測定が主な手法でした.

 1991年9月,村上先生の後任として着任された中西八郎先生は,「有機・高分子ナノ結晶,擬似分子科学」の研究を開始されましたが,それまでの私のキーワード・手法が幾つか符合し,早速,光散乱法による有機ナノ結晶のサイズ評価という分担で共同研究者として参画しました.その後,有機ナノ結晶が見せる様々な姿(構造・物性,反応性,機能)の解明を進めましたが,その過程で研究室・学内外の多くの共同研究者を知り得たことは,これからの私にとっての財産と思っています.この研究は「ハイブリッドナノ結晶」として,現在も展開中です.その一方で,光散乱法を用いた高分子会合系のダイナミクスについての研究も何不自由なく行えました.この間,二つの大きな経験を積む機会に恵まれました.一つはドイツのマックスプランク高分子研究所(MPIP)とBASF-AG中央研究所に留学させて頂いたことです.世界の高分子研究を常に先導するMPIPと民間企業でありながら徹底した基礎研究も重視するBASF-AGでの体験は,昨今の大学が置かれた現状を省みたとき,組織体制も含めて時折思い浮かべます.もう一つは,つくばにある(独)物質・材料研究機構ナノマテリアル研究所に人事交流で3 年間滞在したことです.まわりはすべて物理系か電子工学出身の半導体ナノ材料の研究者で,そこでの議論は新鮮且つ刺激的で,術語の定義一つを巡って深夜まで飲みながら,話し込みました.彼らのシリコンデバイスへの揺るぎない自信と有機分子・材料へのある種の羨望に近い強い興味に触れることができました.

 研究のスタイルは「二つの座標軸」によって大きく4 種類に分けられると考えています.横軸は基礎から応用までの尺度.原点で直交する縦軸は「真理や新原理の探求」の方向とその対局にある「知識の集約や再構築」を示します.例えば,基礎的で真理や新原理の探求の領域(数学で言う象限)には,量子論の黎明期に活躍した人々がいます.一方,T. A. Edisonらは応用的で知識の集約や再構築の領域,つまり知識を集約して工学的価値を創出した代表例です.各領域で活躍した・している人々は,自分らがその領域にいるなどとはほとんど意識せずに研究を展開した・している筈です.しかし,そこには「共通の第三の軸」があり,それは「新しい概念と分野の創出」です.

 学問分野の潮流は激しく,このような分類自体,既に無意味とも感じますが,自分が研究室を主宰するようになって,この「新しい概念と分野の創出」をこれまで以上に強く意識します.その一方で,軸足である「化学(バックグランド)」の持つ意味も益々重要であり,この一見矛盾した中で,自分の答えを求めて行きたいと思います.具体的な研究内容につきましては,当研究室のHP等をご覧下さい.今後とも宜しくお願い申し上げます.


理科実験教育室に着任して


高等教育開発推進センター 関根勉


 平成18 年1 月より東北大学高等教育開発推進センターに着任いたしました。この場をお借りして皆様にご挨拶申し上げたいと存じます。

 高等教育開発推進センター(高教セ)は平成16年10月に立ち上がった新しい組織なので大学内でもその名がまだ十分には浸透しておらず、「川内の大教センターに移られたの?」などと今でもしばしば言われます。現在、高教センターは比較的大きな組織となっていますが、その中の一つの部所である「理科実験教育室」に着任いたしました。主な仕事として、大学初年次の学生を対象とした理科実験科目である「自然科学総合実験」をお世話する立場にあります。

 自然科学総合実験は平成16 年度より開講された新しいタイプの実験科目で、今年で3年目ですからまだ皆さんには知れ渡っていないと思います。以前に行われていた「物理」、「化学」、「生物」、「地学」のそれぞれの学生実験の枠をはずし、一つに融合させた実験科目で、現代的な5 つのテーマ(地球・環境、エネルギー、生命、物質、科学と文化)を設け、関連する12 の実験課題から成り立っています。そもそもこの科目は、「全学教育とは?」という大学内の議論(「全学教育改革検討委員会」平成11年)を受け、「理科実験に関する検討委員会」(平成12年)の検討報告を基にして、最終的には理学部のメンバーを中心としたワーキンググループ(平成14 年)の精力的な活動の成果として現実化したものです。「一つの物事(科学現象)をさまざまな視点から見つめ本質を理解すること」をそのねらいの一つにしていますが、これは研究の世界においては「学際性」に通じるものがあります。私事で恐縮ですが、人工元素テクネチウムをキーワードとした国際シンポジウムを平成17年に開催しました。このシンポジウム開催のための私のモチベーションは、まさしくこの「学際性」でした。「こんな年齢になって身をもってその重要性をやっと理解したのに、この実験科目を通じれば大学1年生でも理解できるのか!」とはちょっと大げさかもしれませんが、学生さんの心に植え付けられた種がいつどこでどのように芽をふくかという長距離力を楽しみにしながら、種無しであった自分にため息をついている次第です。1年間に約1800名の学生さんが履修しますが、第1セメスターと第2セメスターに900名ずつが分かれます。さらに火曜日、木曜日、金曜日にそれぞれ300名ずつに分かれて受講するシステムです。この300名は12の課題にその人数が分割され、それぞれの実験に取り組むことになるのです。実験課題を担当される教員は年間80名、ティーチングアシスタントの方々が180名にもなります。これだけ多くの方々にささえられている科目の代表ですので、担当されている皆さんへの感謝、テーマ開発や維持にボランティアで携わっている方々への感謝、とともに重い責任を感じざるをえません。手前味噌ですが、この実施に関しての裏方さんの仕事を一生懸命こなし、ああでもないこうでもないと熱く議論しているのが理科実験教育室の教員です。平成17年7月には、この自然科学総合実験は「特色ある大学教育支援プログラム」として採択され、内容をさらに充実させるための後押しをいただいています。また、いわゆる理系学生を対象とするこの科目に加え、文科系学部に所属する学生を対象とする理科実験科目「文科系学生のための自然科学総合実験(仮称)」も鋭意準備中で、平成19年4月に開講します。科学リテラシーに関する日本の評価は大変低いと言われて久しいのですが、社会の課題を正しく理解し、判断するための科学的な基礎知識を備えること、またその姿勢を養うことは重要です。

 たまたまこのようなプログラムが進行し始めたときに縁あって着任させていただき、たいへんやりがいを感じます。さらに、タイミングというものはタイミングであって、自然科学総合実験の開講場所である川内北地区の「理科実験棟」の改修工事を行うことになりました。多くの卒業生の方々はこの実験棟をご存知かと思いますが、昭和43年から38年間の長きにわたって活躍してきた実験棟です。実験棟の周りを囲んでいるメタセコイアの木々は建設当時に植栽したそうですが、立派に育った様子は壮観の一言につきます。時の流れを感じることのできる実験棟が平成19年4月に生まれ変ります。ちょうど、東北大学の川内地区の変遷の中にひとつの小さなピリオドがうたれ、新しい時代に入っていく区切りの時に身をおかせていただいた感もあります。

 最近気に入っている言葉は、「“科学”は自然をみきわめる“こころ”」です。ちょっときざですが、この実験科目を通して“こころ”の種を備えた学生さんたちが社会に巣立っていけるようにと願っている次第です。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。


新任教員ご挨拶


多元物質科学研究所 分子機能制御分野 永次 史


永次先生


 本年度4月1日より多元物質科学研究所 分子機能制御分野の教授として赴任いたしました、永次 史と申します。大学院理学研究科化学専攻の協力講座として化学教室にお世話になることになりました。よろしくお願いいたします。

 まず簡単に自己紹介をさせていただきたいと思います。私はこの3月までは九州大学大学院 薬学研究院の助教授として勤務しておりました。生まれも育ちも九州の福岡で、こちらに来た当初はあまりの寒さに毎日震えておりました。冬、寒いのは覚悟していたのですが、春の寒さにはちょっとびっくりしました。出身大学も九州大学薬学部で、兼松 顕教授(現 名城大学学長)のご指導のもと、天然物合成のテーマで修士を取得した後、城西大学薬学部に助手として1年半、勤務しました。その後、再び九州大学薬学部の放射性薬品化学教室(前田 稔 教授)の助手として戻り、脳機能マーカーを目指した放射性薬品の開発というテーマで、インビボサイエンスに関する研究を約5年間行いました。学生時代から有機合成化学をバックグラウンドにして生体にアプローチする化学に興味をもっていたのですが、生体はあまりにも複雑で有機化学的に直接生体にアプローチする化学を展開するには非常に困難であり、当時の私の技量・知識ではかなり無理があると痛感しました。ちょうどそのころに現在も続けております、「遺伝子発現を化学的に制御する方法論の開発」というテーマにであい、佐々木茂貴助教授(現 九大薬学研究院 生物有機合成化学 教授)と共同研究をはじめました。はじめた当初は核酸の合成さらにオリゴDNAの合成についてもまったく素人で、試行錯誤を繰り返しながら約4年かかって、現在の研究の基礎となっています反応性核酸を含むオリゴDNAを合成することができました。この結果で、1996年、ようやく、博士号を取得することができました。その後、この化学的ツールをさらに発展させるべく研究を展開し、新たに開発した反応性オリゴDNAの機能を細胞内で調べるために、2001〜2002年までアメリカのNIHに留学しました。留学先では合成した反応性のオリゴDNAを用いて、モデル系ではありますが、細胞内で化学反応誘起による選択的点変異誘導に成功し、従来自分たちが考えていた化学反応による変異の誘起という概念を証明することができ、また分子生物学的な手法も少し学ぶことができました。帰国後、2003年に助教授に昇任し、本格的に細胞内における化学反応の追跡及びその化学反応により誘導される細胞内におけるレスポンスいわゆるIn Cell Chemistryについて研究を展開する計画をたてていたところ、縁あってこちらに赴任することが決まりました。薬学部を離れるのは初めてであり、理学部化学科も研究所も薬学部とはいろいろなシステムが異なることから戸惑うことも多々あります。私自身、まだまだ教授として研究室を主催していくには準備不足のような気もいたしますが、自分の夢を学生に語りつつ研究を進めていこうと思っております。私の研究の夢は「ミクロの決死圏」(古い映画で年がばれてしまいますが・・・・)の中で活躍したミクロ化された医療団が行ったような治療を自分たちの作った有機化合物で実現することです。最近、大学でも数値目標による評価が頻繁に行われ、まだ研究を始めて間もない学生までもがその評価にさらされています。その中で「研究に夢を」というのは何をばかなことをといわれかねませんが、研究に自分の夢をたくしながら、学生にも独創性のある夢のある研究をめざせる環境の中で研究をすすめていけるような研究室を作っていきたいと思っています。


トップ ホーム