受章記念寄稿


「紫綬褒章を受章して」 理学研究科教授・副学長 山本嘉則


受賞記念寄稿


「第7回原子衝突研究協会若手奨励賞を受賞して」 岸本直樹

「日本化学会進歩賞を受賞して」 庄司満

「井上科学振興財団第22 回井上研究奨励賞を受賞して 〜博士後期課程3年間を振り返って〜」 塚崎敦

「2006年日本化学会学術賞を受賞して」 福村裕史

「科学技術分野文部科学大臣表彰若手化学者賞を受賞して」 宮坂等


紫綬褒章を受章して


理学研究科教授・副学長 山本 嘉則


 このたびは、はからずも紫綬褒章を受章するという栄誉をうけました。これは、ひとえに山本研究室で一緒に研究をやって頂いた教職員・学生諸君の御支援・御協力の賜物であります。20年とちょっと化学教室の反応有機化学研究室の教授の席を担当させて頂きましたが、この間に研究室に入ってきて長く居た人短かった人いろいろですが、研究室経由で世の中に出ていった学生諸君各々の顔・風貌・立ち居振る舞いが今でも鮮明に頭の中に記憶しています。これ等全ての学生諸君と、研究室運営に協力頂いた教職員各位に御礼申し上げます。

 大学の教員は素晴らしい職業だと思います。私は、世の中の職業をpositiveな職業とnegativeな職業に分類しています。世の中では弁護士や医者などは高い地位の職業で収入も多くrespectableな人々と思われています。しかし、これ等の職業はある意味では人が困った時に必要となる職業です。(言葉は悪いですが人の弱みに関与する職業です…これをnegativeな職業と分類)。勿論、困った時に助けてもらうのはありがたいですが。一方で、教師や芸術家などは人を育て世に出したり、創造的なモノを世に出し人々にめでてもらったり、決して人の弱みにつけ込むことのない職業です。(positiveな職業と分類)。教授在席中に230数名の学生諸君・教職員の方々と触れ合い、色々な考え方やものの見方を人に与えたり自分も受けたりしてやってきましたが、これがまさしく教育(いや共育)であります。「金を残すは下、名を残すは中、人を残すは上」という昔のえらい人の云った言葉はあたっており、大学の教員はすばらしい職業であると思います。

 さて、紫綬褒章受章者の中には、学者以外に、王貞治・吉永小百合・荒川静香・片岡仁左衛門など有名人も多く、華やかな雰囲気でカメラはそれ等の人々の方に向いていました。なぜか、私が受章者を代表して文部大臣に御礼の挨拶をすることになってしまいました。私の緊張した様子が写真からお判り頂けると思います(手の指をのばしているところ)。昔の小学校や中学校卒業生総代の挨拶の時を思い出してしまいました。丸暗記して言うべき言葉を全て覚えて久しぶりの緊張感を味わいました。


受章の挨拶


その後、皇居に行き天皇陛下に拝謁するという儀式があり、その時思ったのはこの国のヒエラルキーは、天皇との距離や接触時間と連動しているように思いました。「美しい国、日本」などといいますが、欧米の様に人種・価値観・物の見方などにおけるdiversityに欠けるが、天皇を頂点としたconvergentなスタイルは今も昔も変わっていないようです。東北大学化学系のactivityが国内外において高いレベルにあることは皆様御承知のところです。優秀な学生・普通の学生いずれをも化学教室に受け入れ、出来れば全ての学生の持てる能力を最大限に発揮できる様に育て、世の中に送り出して日本を担う人材となって頂くように、化学教室の教職員の方々に今後とも不断の努力をお願いしたいと思います。人材は人財と書くべきでしょう。研究は勿論重要ですが、その研究を通して潜在的に能力をもっている若者に充分に力をつけて頂き世の中で活躍してもらう方がもっと重要でしょう。皆様の御活躍と御発展を願います。


第7回原子衝突研究協会若手奨励賞を受賞して


岸本 直樹


 平成18年8月10日、愛知県岡崎市の岡崎コンファレンスセンターにて第7回原子衝突研究協会若手奨励賞を受賞いたしました。原子衝突研究協会は、今年、設立30周年を迎える歴史のある協会です。どちらかというと原子分子物理学分野の会員が多いのですが、放射線化学や化学反応動力学分野の化学者も多数在籍されています。今回受賞した研究題目は「時間相関2次元ペニング電子分光法による原子分子衝突電離の立体異方性の観測」というもので、オーソドックスな原子衝突研究の手法を上手く組み合わせながら、多数の新しい成果を得ている点を評価していただいたそうです。大学院修士の頃からご指導いただき、素晴らしいテーマと研究環境を与えて下さった本学化学教室理論化学研究室・大野公一教授に感謝いたします。長く一つの研究テーマを続けていると、「銅鉄主義」と揶揄されたり様々な偏見を受けることもあるのかもしれませんが、この化学教室で共に研究を続けてきた学生・ポスドクの皆さんが常に新しいアイデアを吹き込んで下さったお陰で、研究成果が少しずつですが花開き、高い評価を勝ち得るようになったのだと思います。

 私の研究を紹介させていただくと、真空中で分子と原子が衝突反応を起こすとき、分子のどこに原子がどのような力を受けて接近し反応に至ったか、ということを励起した希ガス原子のビームと電子分光法を使って調べるというものです。分子が持つ異方性のために、反応に至るのに有利な部位と不利な部位が分子内にあり、その部位を特定し、さらに原子が受ける力やポテンシャルエネルギー面まで決定するような実験を行うことは、簡単なようでいて、実は非常に難しいことです。実験結果と量子化学計算の結果を突き合わせ、分子の世界で何が起こっているのか思いを巡らせるのは本当に楽しいことです。自分が常に分子の世界に魅了されているのは、やはり多様な分子を楽しむ化学のセンスを教えて頂いたお陰だと思います。最近の進展は、低温に冷却した固体の表面に吸着させた分子に対しても同様の観測が出来はじめたことです。気体の場合には分子間力を観測できることは想像に難くありませんが、固体表面にトラップされた分子との相互作用とその異方性を観測することが出来たときの喜びと驚きは大きなものでした。今後とも発展させていきたいと思います。

 どのような研究もそうだと思いますが、研究では様々な予期しないトラブルに見舞われることもありますし、思ったようにいかないこともあります。そのような時にも、直感と理性をバランス良く働かせながら問題を解決し、奇をてらわず地道に研究を進めていくことが非常に大事なことではないかと感じています。そしていずれは、「分野とひと」を育てるようなスケールの大きな研究者になりたいものです。今回の受賞を今後とも常に前進を続ける励みにしたいと思います。

 今回の賞は、化学教室で与えていただいた研究環境の中、卒業生達を代表して戴いたものですので、共同研究者の皆様、化学教室の皆様にこの場を借りて御礼申し上げたく思います。


日本化学会進歩賞を受賞して


庄司 満


庄司先生


 2006年3月、「生合成経路を模倣した血管新生阻害活性を有する天然有機化合物の効率的全合成」という内容で日本化学会進歩賞を頂きました。受賞の対象となった研究は、東京理科大学に2001年に赴任してからの約5年間で行われたものであり、御指導を賜わった林雄二郎先生と、林研究室の学生・卒業生の皆様に厚く御礼申し上げます。

 私は1993年4月に平間正博先生の研究室に卒研生として配属され、その年の秋から大石徹先生(現・大阪大学助教授)の下で海産毒シガトキシンの全合成研究を始めました。当時その構造式を見て「こんなに大きくて複雑な化合物を合成することが本当にできるのか」と困惑したのを覚えていますが、「千里の道も一歩から」と楽観的に考えて研究していました。そんな中、1995年にアメリカのスクリプス研究所K. C. Nicolaou教授(のちにポスドクとして留学することになるとは、このとき夢にも思わなかった)のグループがシガトキシンと似た構造式の海産毒ブレベトキシンBの全合成を報告した時には「自分が学生のうちに全合成を」と秘かに意気込んでいました。結局1999年3月に東北大学を離れるまでその夢は叶わなかったわけですが、平間先生、山口雅彦先生(現・東北大学教授)、田中俊之先生(現・筑波大学教授)、野田毅先生(現・神奈川工科大学助教授)、大石先生、また平間研究室のたくさんの同窓生とともに過ごすことのできた6年間は、研究者としてだけでなく、人間としても成長することができた非常に実りある時期でした。今回、平間研究室の1学年上で公私にわたり面倒を見ていただいた大栗博毅先生(現・北海道大学助教授)と同時に受賞できたことは、この上ない喜びです。

 アメリカ留学を終えた2001 年4月から、東京理科大学工学部助手として林雄二郎先生とともに研究を始めました。着任当時の学生は、M2が2名、M1が1名、B4が9名の計12名でしたが、年々増加し、2006 年度はD3(1名)、D1(5名)、M2(6名)、M1(7名)、B4(7名)の計26名と倍増しました。しかしながら、実験室の広さは僅か90m2で、都心の大学らしい人口密度の高い環境です。学生の増加とともに研究室が活性化されていくなかで、進歩賞受賞対象となった血管新生阻害剤エポキシキノールの全合成を達成するとともに、いくつかの天然有機化合物の全合成を行いました。一般に、標的化合物の全合成達成とともに合成化学者はその化合物に興味を失い、新たな化合物の全合成に着手することが多いのですが、理化学研究所の長田裕之先生、掛谷秀昭先生との共同研究で天然物のプローブ化による活性発現機構解明の重要性を学び、研究の視野を広げることができました。今後、境界領域研究はますます発展し、研究者は幅広い視野を持つことが求められるようになると思われます。

 2006 年6月からは上田実(有機化学第一)研究室講師として、研究と学生の教育・指導を行っております。私がこれまでお世話になった敬愛する諸先生・先輩方のように、学生に敬われ、慕われ、第一線の研究を行えるよう努力する所存でございますので、今後とも御指導御鞭撻のほど、何卒宜しくお願い申し上げます。末筆になりましたが、本同窓会の皆様のさらなるご発展とご健勝をお祈り申し上げます。


井上科学振興財団第22回井上研究奨励賞を受賞して
〜博士後期課程3年間を振り返って〜


塚崎 敦


塚崎博士


 私はこの度、井上科学振興財団第22 回井上研究奨励賞を受賞しました。本稿の始まりに、博士論文研究を進める上で熱意を持ってご指導くださいました川崎雅司先生、大友明先生、共同研究者の皆様方に感謝します。

 私は、学部・修士時代を東京工業大学で過ごし、卒業研究から川崎先生の指導を仰いでおりました。先生の東北大学異動に伴って理学研究科化学専攻に編入することを決めたものの、編入試験の成績が悪く、冷や汗を流したことが思い出されます。川崎研究室は金属材料研究所にありますので、片平地区での生活が始まりました。引越の際、東工大で使用していた装置の分解、梱包、そして金研での再起動を行いましたが、非常に楽しく、勉強になる作業でした。当時、東工大から3人の同期の学生が一緒に移ってきたことは、ぼくにとってとても幸せなことでした。「同じ釜の飯を食う」という言葉がありますが、睡眠時間以外のほとんどの時間を彼らと共に過ごしたという印象があるほどです。実験、昼食、実験、夕食、実験、夜中になってお酒を飲んで気分転換。生活の大部分を実験に費やして頑張れたのは、彼らのお陰です。そんな私も自分に足りないものの中から少しでも何かを補いたいと考えて、博士後期課程に入った時、「挨拶、笑顔、英語、勉強」という4 つのスローガンを掲げました。川崎研には「実験やって当たり前」という雰囲気が昔からありますので、実験に関するスローガンは不要です。「門前の小僧習わぬ経を読む」という精神を心掛けて3年間頑張ったつもりですが、実際に英語や勉強が上達したかどうか自分ではわかりません。博士課程の3 年間の中で、私は運良く一つの研究成果を得ることができました。それは、博士論文のテーマでもあります、酸化亜鉛pn 接合ダイオードにおける電流注入発光の観測です。このことを経験できただけで、博士課程をがんばった甲斐があったと言えます。私は現在も川崎研でポスドクとして、発光ダイオードやトランジスタなどのデバイスへの実用を目指して研究を続けています。電子デバイスへの応用研究を進める中でも“化学”のおもしろさや奥深さに触れていけるよう、日々努力していきたいと思います。

 最後になりますが、これまでに温かいご指導、ご鞭撻を下さいました先生方、研究室の学生皆様に重ねて感謝の意を表する次第です。


2006年日本化学会学術賞を受賞して


福村 裕史(昭和51年卒)


 同窓会報を繰ってみると、1999年出版の号に新任の挨拶が載っている。あれから7年の歳月が過ぎたとすれば、まさしく光陰矢の如しである。そのときに書いた将来のテーマとして、フェムト秒レーザーによるX線の発生とそれを用いた時間分解X線回折の研究、および相転移ダイナミクスの研究が挙げられている。これらの研究はいまだ完成したとはいえないが、手がかりを得はじめた感がある。今回の受賞は、この部分が前倒しで評価されたものと考えている。

 受賞の対象となった課題は「パルスレーザーによって誘起される凝縮系新現象の開拓」である。この研究は、東北大学に着任する前に大阪大学工学部応用物理学科で行った、高分子のレーザーアブレーションの機構解明研究の延長線上にある。レーザー照射により高分子固体の表面が飛散するためには、光分解、熱分解、相変化など、化学反応と物理変化が同時に起こるため、厳密に機構を解明することは難しい。古巣の理学研究科化学専攻に戻ったのを切欠に、化学独自の視点に立って系の探索を行った。

 その結果、赤外線パルスで振動励起することにより、二液混合溶液が相分離する系が研究対象となることを、当時、博士課程の高見澤淳君(現在、山梨大・研究員)と共に見出した。この系は、室温付近で数度の温度上昇により、化学変化を起こすことなくきれいに相分離すること、水素結合をしている分子の比率がナノ秒の時間分解ラマンスペクトルでモニターできるので、ダイナミクスの追跡が容易であることなど、幾つかの優れた特性を有している。その後、現在博士課程院生の梶本真司君が、異なる分子系で同様に振舞う系を調べ、さらに量的にも質的にも研究を深めることができた。これらの研究を直接に指導したのは、英国のFrank Wilkinson教授の研究室で学位を取ったJonathan Hobley助手(現在、シンガポール材料科学工学研究所)であり、彼の貢献無しには本研究は実を結ばなかったと思われる。

 もうひとつ、熱的変化の対極にあるものとして、フェムト秒レーザーによるパルスX線発生を畑中耕治助手とともに検討したことも、今回の受賞理由の一部になっている。塩化セシウムなどの水溶液にフェムト秒赤外光を集光することで、安定に超単パルスX線が得られるようになった。最近になって、現在博士課程院生の尾高英穂君が、音楽用カセットテープから発生するパルスX線を用いて、シリコン単結晶の時間分解X線回折像をとることに成功した。今後、興味深い結果が続々と得られるものと期待している。レーザー誘起X線の強度を高めるための手法開発は、畑中耕治助手に負うところが大である。

 今回の受賞に当たっては、応募の段階から審査を経るまで、多数の方々、とりわけ化学同窓会の皆様にお世話になった。受賞後にお祝いの会を千葉の日本化学会春季年会会場の近くで開いていただいた(添付写真)。遠方より茅先生、増原先生などお忙しい先生方に集まっていただき大変感動した。化学同窓会の皆様のお力添えがあったればこそ、何とか漕ぎつけることができたものと深く感謝する次第である。


お祝いの会


科学技術分野文部科学大臣表彰若手化学者賞を受賞して


宮坂 等


 この度、平成18年度科学技術分野文部科学大臣表彰若手化学者賞を「固体磁性分野における単一次元鎖磁石の創出と磁気挙動の研究」で受賞いたしました。この研究成果に至った経緯も含め、簡単に研究内容をご紹介したいと思います。

 受賞研究のバックグラウンドは、「分子磁性」です。私が、分子磁性研究に出会い、研究をスタートしたのは、九州大学大学院時代(1993-1998・3 月)でした。その当時、分子レベルで異種金属の配列を制御して多次元構造を構築し、バルク磁石を設計することが、この分野では最もホットな研究でした。私は、「分子構築素子を組み上げる」方法に着目し、「配位供与素子」と「配位受容素子」の二種の構築素子を用いる方法を提唱し、孤立系、一次元、二次元、三次元系と様々な分子集合体を得ることに成功しました(博士論文)。その時「配位受容素子」に用いたのが、Mn(III)のサレン化合物という物質で、多少専門的ではありますが、配位受容方向に磁化容易軸を持つ物質です。この「磁化容易軸」の重要性が、その後この受賞研究に繋がる物質群を創造することになろうとは、その当時は、まだ思ってもみませんでした。

 その後、新しい研究を展開したいという思いから、学術振興会特別研究員(PD)として京都大学大学院工学研究科の北川進教授の研究室で、金属-金属結合を分子素子とする新たな電子材料系物質の研究をスタートさせました(1998-1999・9 月)。その研究の進展のために、その後一年間テキサスA&M大学のKim R. Dunbar教授の研究室で研究を行いました。「磁性ではない、新しい物質群・・・」を求めてアメリカに来たのですが、Dunbar教授は、分子磁性研究も活発に研究を展開しておられたため、コーヒーを片手にしばしば分子磁性の話題で盛り上がることもありました(もちろん、新しい物質群の研究も良い結果を出せたと自負しています)。その時、「一分子で磁石になる単分子磁石(Single-Molecule Magnet)」についての議論がありました。この物質は、分子固有の一軸異方性が低温で磁化反転を困難にするため、磁化が一軸方向に束縛されることにより磁石の性質を示す超常磁性体です。その当時は、世界的に“分子”に注目が集められていましたが、ふと考えると、「バルク磁石に成り得ない一本の一次元磁性鎖でも、同じように考えることができるのでは?」という疑問を持ちました。振り返ってみますと、ちょうど大学院時代に扱っていた物質群がその候補になるのではないかと思い立ち、すぐにその化合物を合成し、フランスの友人に磁性測定を依頼しました。2000年10月にアメリカから帰国し、東京都立大学(現、首都大学東京)大学院理学研究科の助手に着任し、本腰を入れてこの研究に取りかかりましたが、当初は研究室に手持ちの磁化率測定装置(SQUID)がなかったため、共同研究からのスタートとなりました。その結果、予想通り、一本の一次元磁性鎖で超常磁性を示す化合物が得られ、「Single-Chain Magnet、単一次元鎖磁石だ!世界初だ!」と大いに喜んだことを覚えています。すぐに詳細な測定を開始し、論文を書き始めました。ところが、喜びもつかの間、2000年12月、環太平洋化学会議(ハワイ)で、イタリアのGatteschiが同じコンセプトで独自の化合物を発表するのを見て、「先を越された・・・」と愕然としました。彼らの化合物はCo(II)と有機ラジカルからなるフェリ磁性鎖で、2001年にAngew. Chem.に発表されました。我々の化合物は、Mn(III)2Ni(II)の一次元鎖で、S=3の一軸異方性ユニットが強磁性的に繋がった鎖で、翌年2002年にJ. Am. Chem. Soc.に報告しました。この論文で、このような化合物群を「Single-Chain Magnet(単一次元鎖磁石)」と命名し、現在世界的に使用されています。Gatteschiのグループに世界初は奪われましたが、我々の化合物は、理論的に解釈しやすい強磁性単一次元鎖磁石であり、且つ、「Mn(III)のサレン化合物を構築素子として組み上げる」という合理的設計法を持ち得ていたため、次々に新しい単一次元鎖磁石を報告し、その磁性を物質レベル及び理論的に立証することに成功しました。2001年からPRESTO研究、その後のCREST研究によるJSTからの援助も得て、現在では、10種70化合物を超える化合物を得るに至っています。

 孤立した一次元鎖内で磁化がある方向に一義的に配列しても、三次元的なバルク磁石にはなり得ません。しかし、今世紀になり見出された単一次元鎖磁石によって、ある意味、全く新しい磁石の形態が明かされようとしています。また、この研究により、超常磁性とバルクとの狭間は?、相互作用の次元性は超常磁性にどのように関与するか?・・・等の新しい切り口からの研究がスタートしています。この受賞は、一つの通過点に過ぎず、現在の立場と研究を今一度見直して、今後の研究人生を再確認するよい機会を与えていただいた、と解釈しています。

 今回の受賞は、多くの方々のご指導、ご協力によるものであります。特に、今まで一緒に研究を進めてきた学生さん、共同研究者の先生方にはこの場をかりて深く感謝致します。また、私は、本年4 月に助教授として着任しました。新しい地で、もう一旗揚げたい・・・と考えています。今後とも同窓会の皆様の尚一層の御指導と御鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。


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