学生賞


藤瀬賞を受賞して     大水 聡一郎

日本化学会第84回春期年会学生講演賞を受賞して     小山 靖人

日本化学会第85回春季年会学生講演賞を受賞して     佐藤 健一郎

平成17年日本分析化学会優秀発表賞および第5回創薬工学シンポジウムベストポスター賞を受賞して  佐藤 雄介

平成16年度総長賞ならびに青葉理学振興会賞を受賞して     高村 浩由

平成17年度藤瀬賞を受賞して     根本 哲也

第10回ケイ素化学協会シンポジウムポスター賞受賞にあたって     渡辺千恵子






藤瀬賞を受賞して

大水 聡一郎



この度、平成17年度藤瀬賞を頂きました。その知らせを聞いたのは4月の中頃だったでしょうか。いつも通り実験していると、担当教授である吉良満夫先生が珍しく実験室に入って来られ、「実験の調子はどう?」と質問されました。「あれ?急にどうしたんだろう?」と内心思いながら、当時の実験の進展具合について説明しました。すると吉良先生が。「そういえば大水君、今度藤瀬賞をもらえることになったから」とおっしゃって下さいました。しかし当時の私は藤瀬賞がどういう賞なのかを知らず、「それは何の賞ですか?」と聞いた覚えがあります。その時初めて藤瀬賞が大学院入試の成績上位者に贈られる賞であることを知りました。

さて、私が今回このような賞を受賞できた理由として3点挙げられます。?もともと私は上位に入らなければならない状況に陥っておりました。そう、第1種奨学金を無事に貰うためです。恐らく、この理由が一番効いたかもしれません。当時の私は、「希望の研究室に配属されるため」という目的と同時に「奨学金を貰うため」という意思のもと勉強しておりました。?それは研究室の院試壮行会での出来事です。当時4年生だった私たちは院試に向けた決意表明を発表したのですが、私は酔った勢いに任せて「院試で一番取ります!」などと宣言してしまったのです。周りの先輩方からは、「もし一番じゃなかったら罰ゲームだからな」などと言われましたが、私は追い込まれて力を発揮するタイプでしたので、逆に効果てき面だったかもしれません。?最後に、勉強の基礎固めをお手伝いして下さった研究室の先輩方のお力なしに、この賞は取ることができなかったと思っております。特に4〜6月の毎週月曜日、13時から18時という長い時間、私たちのために院試勉強会を開いて下さった当時D1の先輩方は、自分たちの実験・研究があるのに私たちのために準備や授業をして下さり、本当に感謝しております。ある時、この勉強会の中でテストがあったのですが、先輩が「もし100点取れたら寿司おごってやるよ」と魅力的な条件を突き付けてきました。私、この時は寿司のためにかなり頑張った記憶があります。結果、点数は97点だったのですが、オマケでおごって頂きました。やはり目標がないと勉強に身が入らないというものです。

この原稿を書くに当たって、7・8月の院試勉強休み期間に自分が何をしていたのか思い出してみました。平日は朝10〜11時くらいに理薬図書館に行って、閉館時間の午後5時まで勉強をしていたと思います。といっても、ずっと勉強していても集中できるものではないので、漫画本とか雑誌とか持ち込んで適度に休憩はとっていました。午後5時になると図書館のクーラーがストップしてしまうので、家に帰るか、研究室で測定機器が置いてある涼しい場所で勉強をしました。このように平日はだいたい1日平均6〜7時間くらい勉強していたと思います。土日は、図書館のクーラーがつかないので、家で2〜3時間くらい勉強したでしょうか。このような感じで2ヶ月間勉強していたと思います。ただ毎日毎日勉強していてもさすがに飽きてくるので、友人たちとカラオケや飲み会をしたり、また部活のイベントにも参加したりと適度に息抜きはしましたね。院試の5日前に部の試合の打ち上げがあり、さすがにこの時ばかりは迷いましたが、結局参加して十分にリフレッシュすることが出来ました。今となってはいい思い出です。

それでは今後、院試を受けるであろう学部生の皆さんにメッセージを残します。院試休み期間中は、どうしても遊びたいという衝動に駆られるものです。実際、私もそうでした。でも志望どおりの研究室に入りたいと思ったら、毎日コツコツ勉強してください。当たり前かもしれませんが、「一生懸命勉強すれば受かるし、遊び続けていると落ちる」、これが大学院入試だと思います。

最後になりましたが、この様な機会を与えてくださった東北化学同窓会の皆様にお礼を申し上げるとともに、本同窓会の益々のご発展を心からお祈り申し上げます。また私自身、この院試勉強で身につけた知識・経験を一夜漬けの記憶で終わらせることなく、自分の研究生活に生かせればと思っております。

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日本化学会第84回春期年会学生講演賞を受賞して

                              小山 靖人


 思いがけず、「ケダルシジンクロモフォアの全合成研究」で日本化学会第84回春期年会学生講演賞を頂くことが出来ました。テーマを与えて下さった平間正博先生や、共に研究に励んだMartin J. Lear助手(現、国立シンガポール大学助教授)、有機分析化学研究室のスタッフ、先輩、同輩、及び後輩のお力添えがあったからこそだと感謝しております。

 私は修士課程まで北海道大学大学院理学研究科(村井章夫教授、現、名誉教授)に所属しており、2002年より東北大学大学院理学研究科博士後期課程に入学しました。その後きっちり三年間で卒業させて頂きました。現在は日本学術振興会の特別研究員(PD)として、東京工業大学(鈴木啓介教授)で研究に励んでおります。東北大学大学院に在籍してわずか二年の結果で、この度の賞を頂くことができたのは、平間教授の優れた化学観と、研究室の先輩の多くの知見と、研究に情熱をそそぎやすい東北大学の環境や大学全体の雰囲気の御陰であると痛感しております。

 「ケダルシジンクロモフォア」はエンジイン系抗生物質であり、構造的特徴として、アセチレンが2つ、オレフィンが一つ含まれる歪んだ9員環に加え、アンサマクロリドと2つの糖を持ち、更にありとあらゆる官能基を備えている非常に複雑な天然物です。室温では速やかに自己分解するため、天然ではタンパク質に内包されることで安定化しています。合成化学上最難関な標的化合物であると言って良いと思います。この超分子をいかにして作るか、ということを課題とし、その収束的な合成を目標としました。つまり、このケダルシジンクロモフォアは六個のフラグメントを組み合わることで合成できると考え、個々のフラグメントの大量供給法(数十グラムスケールに適応可能)を確立しました。またそれらを適当な順番で連結し、全合成に向けての多くの知見を得ることが出来ました。

 これまでに研究室を三つ渡ってきましたが、環境と人間関係がその引っ越しの度に大きく変化し、新しい空間に適応するまでに時間と労苦がかかりました。しかし、その分多くのことを学び、吸収できたように思います。大学の学部のころまでは教科書から勉強するのが当然のように感じておりましたが、大学院に進んでからは、人から物事を学ぶことがとても多くなりました。東北大学在籍時に、多くの友達や知人を作ることができ、彼らにたくさんのことを教えて貰いました。また、北海道大学では海洋性超微量毒シガトキシンの合成研究を、現在東京工業大学では生合成経路が異なる分子を組み合わせてできている複合型分子の効率的合成法を開発しております。いずれも天然物合成有機化学でありますが、教授によって化学観が大きく違うためか、視点も、目指している山も違うように思います。多くの視点を手に入れることができた、ということ、また、そのうち自分だけの山を見つけて、その頂を目指そうという気持ちを獲得できました。

 博士課程の三年間は本当に充実していて、力の全てを注いで日々過ごすことができたと思っています。研究外でも楽しい行事が満載しておりましたし、研究の息抜きの際に、いろんな人とお話することができたこともとても良い想い出です。それもすべて東北大学の雰囲気によるものだと思い、東北大学化学教室で諸先輩達によって培われた伝統と想いを胸いっぱいになる程に感じました。自分もなるべく研究室に所属している若い学生に、自分が受け取ったものを手渡そうと心がけてきました。今後も仲間と連絡を取り、良い伝統を紡いで行きたいと思います。

 最後になりましたが、東北化学同窓会の皆様の益々の御発展を心より申し上げます。




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日本化学会第85回春季年会学生講演賞を受賞して

佐藤 健一郎



この度、私は2005年3月26日から29日に神奈川大学で開催された日本化学会第85回春季年会において、演題「ルイス酸触媒を用いた分子内芳香環化反応の開発とオクロマイシノン合成への応用」を発表し「学生講演賞」を受賞いたしました。このような賞を頂いたことを大変光栄に思います。これも日頃からご指導して頂いております山本先生、浅尾助教授ならびに研究室の皆様のおかげであります。また、大石博士、野上博士、笠原修士を始めとする卒業された諸先輩方からのご指導無くして今の自分はありません。重ねてこの場を借りて感謝申し上げます。

第83春季年会(2003年)から、従来の講演「A講演」(講演7分、討論3分)に加え、「B講演」(講演15分、討論5分)が新設され、B講演の対象者から学生講演賞が選考されます。当初、私はA講演で申し込もうと教授室のドアを叩きました。無難な道を選ぼうとしていた私に山本先生はB講演という試練を与えて下さいました。諸先輩方からは大丈夫かと心配のお声も多数頂きました。自分がB講演で発表しているのが想像できないという声も聞かれました。自分も重々承知しておりました。それもそのはず、その当時目標に掲げていた天然物の合成が暗礁に乗り上げていたからであります。こうして、ついに時限爆弾を背負った私は日夜実験に没頭することになりました。研究グループメンバーに支えられ、どうにか目標を達成したのは学会の10日前でした。これでようやくB講演の資格を手にし、臨んだ学会発表では予想もしていなかった学生講演賞を頂戴し、非常に励みになりました。これも山本先生の賢明なお導きがあっての賜物であり、大変感謝しております。この賞に恥じぬように、今後も努力精進していきたいと思います。

<発表の概要について>

ポリ環状生理活性化合物の合成において、環状炭化水素化合物は有用な出発物質として多く用いられている。一般的な合成法としてはFriedel-Craftsタイプの反応が知られているが、幾何異性体を生じる事が少なくない。今回、私は当研究室で開発したルイス酸触媒による芳香環化反応を応用して、一挙に2つの環を形成する3環性化合物の合成法を開発した。さらに本反応の生成物は、胃潰瘍の原因菌であるヘリコバクターピロリ菌に対する選択的活性を有する(+)-オクロマイシノンの骨格に類似しており、本反応を鍵反応とする全合成を達成した。




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平成17年日本分析化学会優秀発表賞および第5回創薬工学シンポジウムベストポスター賞を受賞して

佐藤 雄介

この度,平成17年日本分析化学会優秀発表賞および第5回創薬工学シンポジウムベストポスター賞をいただくことができました。私のような若輩者がこのような名誉ある賞を頂くことができましたのは,寺前教授をはじめとする分析化学研究室のスタッフ皆様の暖かくも厳しいご指導によるものだと考えております。この場を借りて,あらためて感謝の意を示させていただきます。特に直接ご指導頂きました西澤精一講師には,まったくもって無知無学な私に研究の指針,研究者としての考え方,あり方について常にご指導,ご助言を賜りまして,まことに感謝しきれない気持ちでいっぱいです。

研究室見学を行った時から,分析化学研究室への配属を強く希望していた私は,いろいろありましたが,なんとか希望通り分析化学研究室に配属されることとなりました。さらに,研究テーマも「脱塩基部位空間における核酸塩基認識の機構解明」という壮大なテーマを頂きました。実験開始にあたり,直接実験の指導をしてくださる当時DC3 だった先輩との最初のディスカッションでは,自分の研究の位置づけ,研究意義など,当時の私には難しい話を聞かされ,そのディスカッションの後には,これから先の研究生活に耐えられるか大変不安に感じたことを今でも覚えています。また自分が何年後かには先輩のような豊富な知識,考え方を身につけたい,という憧れも強く持つようになりました。以後,セミナーなどで厳しく指摘してもらったことで,自分にもまだまだ未熟ながらも一研究者としての自覚を持つことができました。実際に手を動かし実験を進めていく中で,気軽に実験の相談に親身になってくれるスタッフ,先輩方の助けのおかげで気がつけばもう研究室配属から3年が経ちました。この3 年間で,化学教室の同期,分析化学研究室の先輩,同期,後輩と研究以外でもいろんな話をしたり,時にはお酒を飲みながら私の愚痴に付き合っていただいたり,数え切れないほどの大切な仲間に囲まれている自分に何度も再確認させられました。特に、研究室の同期の仲間には、常に刺激を与えてもらい、何度も挫折しそうになった自分を支えていただきました。今後も素晴らしい仲間と,離れて暮らす両親,家族に感謝の意を絶えず持ち,楽しい,実りある研究生活を続けて生きたいと気持ちを新たに邁進していくつもりです。

さて今回の受賞の対象となりました研究課題は,脱塩基部位含有DNA 二重鎖とナフチリジン誘導体の熱力学的解析です。脱塩基部位空間における核酸認識リガンドと核酸との相互作用を熱力学的測定法により各自由エネルギーの寄与に分配することで,核酸塩基認識のDriving Force を明らかすることに成功いたしました。これにより,核酸認識リガンドの分子設計などに大きく貢献できることが期待されます。なお本研究の遂行にあたりまして,配属当時から大変厳しいご指導を頂きました吉本敬太郎博士 (現理化学研究所),分析化学研究室の皆様方にあらためまして深く御礼申し上げます。

最後に今後とも同窓会皆様のなお一層の御指導と御鞭撻を賜りますよう,どうぞ宜しくお願い申し上げます。このような場を与えていただき,まことにありがとうございます。






(左から、吉本博士、小野学士、奥出学士、渡辺美和学士、私)


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平成16年度総長賞ならびに青葉理学振興会賞を受賞して

高村 浩由 (平成16年度卒)


 この度、私は平成16年度総長賞ならびに青葉理学振興会賞を受賞させて頂きました。今回、受賞の対象となった研究は、本化学教室山本嘉則研究室で行われたものであり、終始暖かいご指導を賜りました山本嘉則教授、門田功助教授、そして苦楽を共にした共同研究者に深く感謝致します。

 私は平成8年に本学理学部化学科に入学し、平成17年に博士後期課程を修了するまでの9年間、化学教室で科学を楽しみながら勉強させて頂きました。特に研究室に配属されてからの6年半は、非常に中身の濃い研究生活を送ることができました。勉強の仕方、研究に対する姿勢、研究の進め方、研究生活を共にする同僚とのコミュニケーションの大切さなど、多くのことを学ぶことができました。私の研究者としての基礎はここで作られたといっても過言ではないと思います。

 本化学教室ではご存知のように、学部三年生後期で研究室に配属されます。研究室配属はその後の自分の研究生活を左右する大きな岐路であると思います。私は、化学の中でも特に有機化学に興味があったこと、また山本先生の講義が非常に分かりやすく、かつ面白かったことから、山本研への配属を希望しました。配属時、既に研究室は職員、学生合わせて30名以上という大所帯となっていました。私は研究に対するやる気だけは十分にあったのですが、専門知識、また実験技術は当然なく、優秀な諸先輩方を目の当たりにし、あまりに非力な自分に悔しさを感じたのを今でも強く覚えています。早く一人前の研究者になりたい、この一心で周りから吸収できるものは何でも吸収し、自分のものにしようと思いながら研究していました。月日が流れ、今度は自分が先輩という立場になっていました。頼もしく思えたあの先輩方のようになれるだろうかという不安は常にありましたが、自分の思う理想の研究者像を目指し、周囲とのコミュニケーションを大切にしながら研究に勤しんできました。他人の意見に耳を傾けながらもこだわるところは徹底的にこだわる。これを研究生活を通して身をもって学ぶことができました。

 さて、東北大学化学教室在学時に私が行った研究の話をさせて頂きます。自然界には、特異な構造を有する有機化合物が存在し、それらは生物に対し切れ味鋭く作用します。私が研究対象としたポリ環状エーテルもそれら生物活性天然物の一つです。海洋産ポリ環状エーテルは、赤潮による魚介類の大量死やシガテラと呼ばれる大規模な食中毒を引き起こし、それらは世界中で深刻な社会問題となっています。しかし、自然界のこれらの化合物は微量成分であり、生産微細藻による培養生産も遅いことから天然物による生物学的研究は事実上困難です。そのため、その詳細な生理活性発現機構の解明や中毒の予防、及び治療法の確立を目的とし合成研究をスタートしました。色々と苦労した点も多くありましたが、神経毒性を有するガンビエロールの全合成を102総工程数で達成しました。また、メキシコ湾における赤潮の原因種であるブレベトキシンBの全合成を108総工程数で達成しました。今後、これらの全合成を新たなスタート地点とし、構造活性相関や生理活性発現機構が明らかとなることが期待されます。

 現在、私は名古屋大学で助手という立場で研究に従事しております。自分が考える理想の研究者像、教育者像を目指し、自分なりに楽しみながら研究を続けております。今後、自分なりの化学をこの名古屋から発信し、科学の発展に、また社会の発展に少しでも貢献できるよう、一研究者として精進したいと考えております。



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平成17年度藤瀬賞を受賞して

根本哲也


この度、平成17年度の藤瀬賞をいただくことが出来ました。受賞にあたりましてまずは山本嘉則先生、浅尾直樹先生、門田功先生、中村達先生、そして当時のM1の皆さんなど勉強会においてお忙しい中指導をして頂いた皆様、また様々なアドバイスを下さった研究室の皆様に感謝の意を表したいと思います。

大学院入試試験に向けた勉強をしていた当時を振り返ってみますと初めは何から手を付けてよいかわからず途方に暮れていた姿がまず思い浮かんできます。この頃はやらなければならない事の多さに圧倒されそれが不安となってのしかかってきており、時々オリンピックの誘惑に負けていた気がします。しかし勉強会を通じ勉強を重ねるにつれ、今までの授業の中で点として学んできたことが有機的に結びついていて、ひとつの物事を様々な視点から考察しているのだと気付くことが出来た時私の中での化学がひとつの系統立った学問として形を現してきました。私は化学に対するこのような視点を持てたことが入試試験の勉強の中での最も大きな収穫であったとともに、これからの研究生活の上での非常に大きな力になるものと感じております。

現在私は研究室において二重活性化されたエノールエーテルと様々な二重結合との新規環化付加反応の開発を目指して研究を行っております。反応の基質を探す際には考えられる中間体や遷移状態を考慮しそれを安定化してくれるようなものの組み合わせを探してゆくわけですが、そこで使われる知識は学部で使われる教科書にも載っているような基礎的なものがほとんどです。それをどう生かして基質の中に組み込むか、触媒のデザインを考えるかというところに新しい反応の鍵があると私は考えています。つまりそれは全く新しい反応を見つけ出すチャンスが誰にでも、いくらでもあるということです。

私もそんな新しい反応を見つけてやろうと自分の考えられる可能性を実際に試しており

ますがあまりよい結果が得られておりません。どんな成功もその何十、何百倍もの失敗の上に成り立っていることを頭では分かっているつもりですが実際に毎日失敗の日々を送っていると全てを投げ出したくなることもあります。しかしそんな時にもいつかは必ず成功させることが出来るという確固たる信念とこれまでの勉強の中で培ってきた知識が自分を支えていることを日々感じております。修士課程修了までの残り一年間、何かひとつでも今までにない新しい反応を発見するため全力で頑張ってゆくつもりですのでスタッフの皆様、研究室の皆さんご指導のほどよろしくお願い致します。

最後にこのような機会を与えてくださった東北化学同窓会の皆様に厚く御礼申し上げると共に益々のご発展をお祈り致しております。

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第10回ケイ素化学協会シンポジウムポスター賞受賞にあたって    

 
渡辺千恵子

私は平成17年10月29日に広島県の宮島で行われたケイ素化学協会シンポジウムにおいてポスター賞を受賞いたしました。今回は第10回という節目であり、そのような記念すべき時にポスター賞を受賞できたことを大変光栄に、また嬉しく思います。ポスター発表のタイトルは、「ビス(ジアルキルシリレン)−パラジウム錯体の反応、構造及び理論的考察」であり、単離可能なジアルキルシリレンのみがパラジウムに配位した2配位14電子ビスシリレン錯体について報告しました。共同研究者の吉良満夫教授、岩本武明助教授をはじめとする吉良研究室の皆様に厚く御礼申し上げます。

炭素二価化学種であるカルベンと遷移金属との錯体は種々の合成反応の触媒などとして重要であり、近年単離可能なジアミノ置換カルベン2分子のみが遷移金属に配位したビスカルベン錯体が合成されています。特にビス(ジアミノカルベン)-パラジウム錯体について申しますと、この錯体は触媒として有用であること、さらに理論計算によりパラジウムからカルベン中心炭素へのπ逆供与が非常に小さいことが報告されています。しかしカルベンの高周期類縁体であるシリレン2分子のみがパラジウムに配位したビスシリレン−パラジウム錯体は合成されておらず、その構造や反応性に興味が持たれます。単離可能なシリレンは限られているため、反応系中で発生させてシリレン錯体を合成する方法が多いのですが、当研究室では単離可能なジアルキル置換シリレンの合成および単離に成功しており、パラジウム錯体との反応により、発表で報告することのできたビス(ジアルキルシリレン)−パラジウム錯体の合成に成功しました。さらに理論計算によりパラジウムからシリレン中心ケイ素へのπ逆供与が存在し、その程度はジアミノ置換カルベンおよびシリレンよりも大きいことを明らかにしました。合成に成功した錯体は水はもちろん水素や一酸化炭素のようなガスとも速やかに反応し、興味深い反応生成物を与えることが分かりました。現在、さらなる反応性を明らかにするために日々検討中であります。

思い起こせば、私は約2年前、博士課程から東北大学に編入しました。修士課程でも現在と同様、水や空気に不安定な化合物の研究を行ってはいましたが、酸化されやすい遷移金属錯体の合成や反応は初めてでした。新しい研究環境に変わっただけなく、さらに注意を要する研究のため戸惑うことも非常に多かったのを覚えています。またいままでやっていた同じ実験操作でも、研究室が違えばやり方も違います。そのため、研究室のスタッフや先輩、後輩から吉良研究室での実験操作のスタイルから始まり、実験的なことまでたくさんのことを教えられ、学びました。私は研究環境に恵まれことを大変感謝し、吉良研究室の実績に貢献できたことを嬉しく思います。

遷移金属にはたくさんの種類がありますが、それぞれの元素ごとに性質が異なり、各論であると言われます。したがって遷移金属錯体と一言で言っても、多様性があり、さまざまな反応性を持っています。吉良研究室で遷移金属を扱うことがなければ、このおもしろさを身をもって感じることはできなかったことでしょう。これからも遷移金属錯体、とくにシリレン錯体についての研究を進め、さらに発展させていけるよう、日々精進していきたいと思います。

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